昔々ある所に、とても可愛らしい女の子がおりました。
 その女の子はとても凶暴な性格だったので、みんなから手乗りタイ……もとい、
 その女の子はいつも真っ赤なずきんをかぶっていたので、みんなから赤ずきんと呼ばれていました。


 ある日のことです。赤ずきんはお母さんからおつかいを頼まれました。
「赤ずきんちゃん、森のおばあちゃんの所にパンとミルクを届けてくれないかしら?」
「めんどくさいから嫌」
「……あんたね、仮にも母親役に向かってその態度はなによ?」
「母親なんて知ったこっちゃねーわよ。大体用事ならばかちーが自分で行けばいいじゃない」
「それじゃストーリーが進まないっつってんのよ。ほら、さっさとバスケット持って」
「嫌だっつってんでしょうがこのバカチワワ」
「……ああもう、『おばあちゃんの所』ってのは実乃梨ちゃんの所よ。それなら行くでしょ?」
「それを早く言いなさいよ。みのりんの所なら行くに決まってるじゃない」
「……なんか亜美ちゃん疲れちゃった。はい、さっさと行ってらっしゃい。そんで二度と帰ってくんな」


 さて、赤ずきんちゃんが森の道を歩いていると、目付きの悪い狼と出会いました。
「や、やあ、赤ずきんちゃん。今日はどこへ行くのかな?」
「あんたには関係無いでしょこの駄犬」
 そう言い捨てて、赤ずきんは狼の横をすたすたと通り過ぎました。
「……いや、今は一応狼なんだが……じゃなくて、行き先ぐらい教えてくれてもいいじゃねえか」 
 狼は慌てて赤ずきんに追いすがります。
「うるさいついてくんなストーカー犬」
「しかたねえだろ。ここで聞かなきゃストーリーが……」
「ああもう、あんたもばかちーもストーリーストーリーって。
 私はこれからみのりんの所にパンとミルクを届けに行くの。これで満足?」
「お、おう……っておばあちゃん役は櫛枝かよ。ということはこのまま行くと俺が櫛枝をた、食べ……
 おうっ!」
 立ち止まった狼のスネに赤ずきんの蹴りが入りました。狼はたまらずしゃがみこみます。
「い、いきなり何しやがる……」
「あんたがキモい妄想してるからよこの変態犬。ほら、さっさと行くわよ」
 ずい、と赤ずきんは狼の目の前にバスケットを突き出します。
「……え?」
「『え?』じゃないわよ。あんたがどうしてもって頼むから行き先教えてあげたのよ。
 その対価に荷物持ちするぐらいは当然じゃないの」




 ずんずんと進む赤ずきんの後をついて歩きながら、狼は困っていました。
(まいったな……俺は先回りしておばあちゃんの家に行かないといけねえのに)
 そんな時、二人は花畑の横を通りかかりました。
「……あー、たい……じゃねえ、赤ずきん。おばあちゃんにさ、花摘んでってやったら喜ぶんじゃねえか?」
「あら、駄犬にしては珍しくいい考えじゃないの」 
(よし、これで赤ずきんが花を摘んでる隙に……)
「それじゃ、早く摘みなさいよ」
「……へ?」
「あんたのアイデアなんだから、あんたが摘むのが当たり前でしょ。違う?」
「……違わないです、はい」


 コンコン。ノックの音におばあちゃんは勢いよくドアを開けました。
「おう、遅かったじゃないかね高須君……じゃなくて狼さん。ささ、このババをば頭からぱっくりと……ってあれ?」
「はいみのりん、こればかちーから頼まれたパンとミルク。それからお花、途中で摘んできたの」
 赤ずきんがにっこり笑って(直前に狼から奪い取った)バスケットと花束を差し出します。
「おう、ありがとうよ大河……じゃなくて赤ずきん。
 だけど、なんで赤ずきんと狼さんが一緒に来るのさ?」
「いやまあ……なんか流れでな」
 狼は心なしか疲れているようにも見えます。
「ねえ竜児、ずっと歩いて来たからお腹空いた」
「おう、ちょっと待ってろ。櫛枝、悪いが台所と食材使わせてもらっていいか?」
「あ、うん。かまわないけど」
「すまねえな。使った分は後で埋め合わせするから。
 大河、なんかリクエストはあるか?」
「肉ー」
「おう、肉な。それなら……そうだな、手っ取り早い所でベーコンエッグにするか。大河の分はベーコン多めで」


 その後なんだかんだで、狼は赤ずきんの面倒をみながら末永く幸せに暮らしたそうです。
 めでたしめでたし。




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