「りゅうじぃ〜、ねぇ〜、つまんない男ぉ〜?」
「『つまんない〜』だけでいいだろだからそこ!? なんだよ、大河」
「ね、ゲーム買いにいこうよ!」
「おまえまたかよ。つい二週間前に買ったばかりじゃねえか。あれどした、あれやれよ」
「あきた」
「はあ? 俺おまえがやってるとこ見たことねえぞ?」
「だってあれ謎解き推理ゲーでしょ? わかったの私、あのゲームが駄目だって。
 なんかこう、やってたらキーっ!ってなって、画面に虹が出るの」
「『私が駄目だってわかったの』だろそれ言うなら!? 虹が出るのはゲームの仕様じゃねえぞ!?
 おまえ馬鹿力で液晶ひねっただろ! こないだから俺のやつの画面おかしいの、
 私知らないよーとか言ってたくせに、やっぱおまえか犯人は!?」
「よかったじゃないの」
「なにがだよ!?」
「謎解けて。犯人わかって」
「そんなリアルクソゲーやりたかねえよ!?」
「そんなどうでもいいことよりさあ、ねぇ、竜児ぃ、ゲーム買いなさいよぉ?」
「俺が買うことなる話の流れじゃねえだろ!? 逆だ、ぎゃく! だいいち俺には
 今月はもうそんな金ねえよ」
「ちっ、この甲斐性無し。その分だとあんた一生、いや1億年後もひとり身のままだね。
 配偶者さえ死に至らしめる猛毒持った独犬よ、悪魔のモンスター毒独犬!」
「進化のオーダーで貶すのやめろよマジで……ひょっとしたらなっちまいそうで嫌だ」
「ま、よかったわねえ、今は私がいて。あんた幸せもんだわ」
「えっ……大河……?」
「なによその顔キモい。魔女かと思いきや実は神の道を示すためにつかわされた聖女に導かれて
 神の愛を感じながらついでにその聖女にも猛烈な劣情を催したサイテー般若みたいな顔して
 ひとのこと見るのやめてくれる? ……ははあ、あんた勘違いしたね。この恥知らず。
 小遣いぜんぶエロ本につぎこんでド貧乏のあんたにかわってゲームを買うお金に満ち
 あふれたこの私が今ここにいてよかったね、あんた幸せだね、っていう意味よ! 
 この身のほど知らずの進化知らずの地獄行き般若が!」
「え、エロ本なんざ買っちゃいねえぞ!? ……ていうか、そ、そうだよな。そういう意味だよ、な。
 はは、すまん、なんだろ……おまえのひでえ文句には慣れてるはずなんだが……なんでだ?
 なんか俺、心が折れそうだ……」
「……」
「な、なんだよ大河!? いきなりてて手なんか握ってきて……痛てていででででいどぅあっっ!?
 な、なにしやがんだおまえっっっ!?」」
「心の前にあんたの腕を折ってやろうって私の聖女の心よ」
「なんでそれが聖女の心だよ!? くっそ、いくらおまえでも今日という今日は許さねえぞ!」
「元気でたんじゃん」
「はあ? 元気だあ!? なんだくっそ、笑い……やがって、ご、ごまかされねえぞ、俺は……」
「まだ足りないってわけ? ふうん……」
「足りないって、なにがだよ? 罵倒と暴力は転売したいほど足りてるわ!」
「ん、ごめんね?」
「ごめんねとかおまえもういいかげんに……おう……えぇ!? おまえ今、あ、謝った、よな?
 聞き間違いじゃねえよな?」
「うん。ごめんね、竜児。私ちょっと言い過ぎたよ」
「おうっ、明確なお詫び文言、しかも的確な謝罪点……」
「あんたとじゃれてると楽しくって、つい……ごめんね?」
「しかも心理的慰謝まで……」
「じゃあ、お詫びのしるしに、今日買うゲーム代、私が持つね?」
「しかも経済的補償まで……」
「だからお願い、許してね? 竜児……」
「ぐはっ、しかも破壊力抜群の寂しげな泣き笑いフェイス……だめだ、負けた。許すよ、大河……」



「許してくれるの? 嬉しい! ありがと! さ、ゲーム買いにいこ! 竜児!」
「おう! 俺もおまえの人間的成長を知って嬉しいぞ!」
「ささ、そうと決まれば急げよ! 行った行ったレッツゴー! ……ぷくくっ、なんて操縦しやすい男……」
「おう! 行こう行こう! ……は? おまえ今、後ろでなんか言ったか?」
「じぇーんじぇん?」
「おう、そうか……よし、忘れ物ないか? 財布と会員証持ったか?」
「おっけー! そこのブサ鳥っ! 限りなく死に近い眠りを貪りつつ私たちの帰り待つがいい!
 よーししゅっぱぁーつっ!」
「インコちゃ〜ん、ちょっとお出かけ行ってきまちゅよ〜?……あ、そこで待ってくれ大河」
「えー、また?」
「……よし鍵しめた、と。よしじゃあ降りよう。俺、先な」
 タン、タン、タン……
「……またそうやって。私が転んだ時のため、とか言うんでしょ。あんた過保護すぎ」
 タン、トタン、トタン、トタン……
「そういうのはな、ここで転んだことのない人間が言うことだ。あの時こそたまたま月面宙返り
 決められたからおまえ、無事だったようなものの。俺はもうあんな肝冷やしたくないんだよ」
「おあいにくさま。次はたまたまじゃないね。もう月面宙返りマスターしたもん。転んだって
 ぴゃっとおわっ!っぴゃああぁっっっ!?」
「おうっ……!」
 トサッ!
「っ!?」
「……ほれみろ。最後の段とかがあぶないんだよおまえは」
「っ……と、とっとと離せこのっ!」
「はいはい……」
「……っ」
「なんだ、どした大河。ほれ、早く行こうぜ」
「……う、うん」
 テクテク、トコトコ……
「はー……夜はまだ涼しくていいよな……」
「う、うん……あ、あのね? 竜児……っ」
「おう、なんだ」
「ありがと……って、要らないの?」
「なんだそれ。要るかって訊かれたら、そりゃまあ要るだろうよ。……でも、まあ、いいよ。
 やっぱり俺が下でよかったって、そう思うだけだ」
「っ!……」
「……なんだ。どした。歩こうぜ」
「あ、あのね竜児っ……あ、ありがと……その、受け止めてくれて……」
「おう……どういたしまして」
「……あんたの笑顔キモい」
「また憎まれ口叩きやがって……ほら、行こうぜ。店、閉まっちまうぞ」
「う、うんっ!」




 テクテク、トコトコ……
「……で、今度は何買うんだ?」
「っそう! それよそれ! えっとね……えっと……なんとか……なんかね、すっごく売れてる
 ゲームみたいなの! 初出荷分はすぐに売り切れちゃって、再出荷分もすぐ売り切れちゃって、
 今お店にあるの再々出荷分なんだって! だからその……えっと、ア、アマゾンとかでも評価
 高いみたいよ? ええっと……アニメが元でね! あれ、小説だったかな……とかが元なの!
 だから、んと……」
「まあつまり、タイトルは忘れたわけだ」
「あう……」
「ジャンルは?」
「っそうそう! 恋愛シュミレーション……? 恋愛アドベンチャー? ……そんな!」
「そこも曖昧なのかよ……てか、恋愛シュミレーションねぇ……恋愛、おまえが」
「な、なによ。キモいニヤけヅラこっち向けんな。ほら、街路樹が青葉のままバタバタ朽ちてくよ!」
「そんなわけあるか。……まあ、でも、なんだ。そういうとこはちゃんと女の子なのな、おまえ」
「はあ!? あんたのその目は害虫駆除専用の節穴? でなければ手持ちの変態洗剤で目洗ってでも
 ちゃんとこの私を見ることねえ。あーあ仕方ない、今夜は特別に視姦を許可してやるしかないみたい。
 なんて幸福なエロ犬だこと! ほら、ほら! どこからどうみても心の清い女の子でしょ、私は!」
「くるくる回って頂けてまことにありがたいが心はどうやっても見えねえだろ。あと視姦もしねえ。
 でも、まあ、そうやってりゃ、確かにおまえは可愛い女の子だよ」
「えっ、なに? かわ……うひっ!? あんたっ! こ、この視姦っ!!」
「この痴漢、みたいに言うな。あとおまえ胸と股間を手で隠すな! 服の上からでも恥ずかしいわ!?」
「こ、こっち見んな!」
「はいはい。見ねえ見ねえ。ほら行くぞ」
「……ふう、油断もなにもあったもんじゃない……可愛い、なんて……」
「ほーら、置いてくぞ? てかおまえが買うんだから、キリキリ歩け」
「はぁい……なによ、偉そうに」
 トコトコトコトコ……
「おう、来たか……で、おまえはその恋愛なんたらゲーを買う気まんまんなわけだ」
「っそ、そうよ。なんか文句ある?」
「文句はねえよ。ただな……そうそう、そうだよ、そう。恋愛シミュレーションも結構だけど、
 おまえそんな金遣い荒かったら、旦那になる奴ぁさぞ大変だろうなあ、とね」
「はあ?……えっ、なに……な、ななななんですってえ!?」



「いい旦那さんが捕まえられるかねえ、おまえに」
「ほおお……こぉんのクソおかま犬があっっ! そのキモい笑顔すら二度と出来ないように……
 っはぁ! はっはーん……あんた、さっきの仕返ししようってんでしょ。あんたは一兆年独身だって
 私に言われた仕返しのつもりね! モロバレもいいとこ、お見通しよ。見たかこの大河さまの推理力!」
「ケタひとつ上げんなら宇宙の心配しろよ、ったく……まあ、ご明察だよ。あたり。仕返しだ」
「はん! 私の心配は要りまっすぇ〜ん。結構ですぅ〜。ちゃあんと素敵なひと捕まえてみせるもん!
 ぷくくっ! あんた、素敵ってどんなだーとか、どんなひとだーとか、聞きたいでしょ?」
「ほうほう、そうすかそうすか。んじゃま終わりで」
「ちょっとあんたねえ!? 失礼にもほどがあるでしょ!? ちゃんと絡みなさいよ! 責任とれっ!」
「はいはい。で、なんだ、あー、どんな素敵な男を捕まえるって?」
「えっとねえ、まず貧乏でもいいの! ウチお金だけはあるみたいだし、いざとなったらお婿さんに
 ウチに入ってもらう!」
「おうそりゃ、またなんと怖ろしい話で……で、だ。それでおまえの金遣いの荒さはクリアって
 言いたいんだろ? それで、じゃあそいつは貧乏だとして、どう素敵なんだ? 外見か?
 イケメンてやつか?」
「外見も……べつに。私が気に入ればそれでいい」
「そこで俺見ても基準にはならねえだろ。おうでも、そりゃまあ、外見は気に入ればいいってのは
 うってかわってまっとうなご見識だが。しかし逆にわかんなくなってきたぞ。そいつどこが素敵なんだ?」
「あのねえ、お料理が出来るの! すっごく美味しいもの、毎日まいにちいっぱいいっぱい
 作ってくれるの!」
「ははあ、おまえ確かに料理できねえもんな。食いしん坊のおまえにはさぞやありがたいだろう。
 ようやくちょっとは素敵か、それで?」
「あとねえ、お掃除が上手なの! いっつもおうちはピッカピカ! ちょー快適!」
「おう、いいねえ! そいつは俺も好きになれそうな男だ。男でそれは素敵だぞ。それで?」
「あとねえ、お洗濯とか、洋服の整理とかも上手なの! 柔軟剤とか使いこなしてぇ、
 私のこれとかみたいにすっごくいい匂いでぇ、お洋服いっつもふっわふわ! お日様の香り!
 それでね? しわにもならないように、ちゃあんと収納とかもしてくれるの!」
「おう、いいねいいね! そいつは素敵な奴だ! 友達になりてえよ! 俺もなんかノッてきたわ!
 たしかにおまえそこらへんも苦手だしな、ベストなチョイスだよ! それで、ほかには?」
「あとねえ、すっごく優しいの! 私がドジしてもね、たとえばお洋服に食べ物こぼしたりしたら、
 すぐに染み抜きに走ってくれたりしてね。あとなんか、転んで怪我しそうになっても、
 どんな時でも身を挺してかばってくれたりするの!
 ……なに? なんか変? どしたのあんた」
「……ああ、いや、なんでもねえ。まあ、そりゃ……素敵、素敵だわな、いい奴だ」
「ううん、そのひとの良さなんてね、こんなもんじゃないの。もっともっと優しいひと!
 気の短い私がかーっとなって、どんなひどいこと言ったり、つっかかったりしても、
 ぜんぶ、ぜーんぶ受け止めてくれるの! 私の機嫌が悪くてもね、面白くつっこみ返したり
 してくれてね? 私を笑わせたりして、機嫌もなおっちゃうの……」
「ははあ、それすげえ大変だぞ……いや、じゃなくて。なんてかそれは、かなり、めったにいない奴、
 の、ような……」
「そう。そうなの。それでね、泣き虫の私がね、泣いたりすると、ぜったい放っておかないの。
 一生懸命、慰めてくれたり、いっぱいいっぱい頑張って、決して私のことあきらめないで、
 必ず涙を止めてくれるの。……たとえ喧嘩になってもね? 次の日にはけろっとして、
 挨拶してくれて、話しかけてくれて、それで、美味しい朝ごはん、作ってくれて……」
「……」
「ずっと、ずっと一緒に、いてくれるの。ずっと一緒にいるよ、って、言ってくれるの。
 だからそのひとといると、ね。寂しくないの。辛いことも、苦しいことも、ふたりで一緒に
 必ずきっと乗り越えてみせるの! だから毎日まいにち、楽しくって……私、幸せなの……」
「……あ、わかった! 『ただしあんた以外のひとね!』って言うんだろおまえ? それがオチだろ!?」
「……うん、そう。あんた以外のひと……い、いなかったら、どうしよ……」


***おしまい***





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