「あれ〜?」
「どうしたの、麻耶ちゃん?」
「あれ、高須君じゃね? ほら、駅ビルの前、妙に人の少ないあたり」
「あ、本当だ。誰かと待ち合わせかな?」
「高須君と待ち合わせっていったら……あ〜、ほら、やっぱりタイガーが来た」
「なんか楽しそうに話してるね」
「タイガーってばなんか気合入った格好してるし、デートかな」
「あの二人ってなんだかんだ言っても仲いいもんね」
「あ〜、あたしもラブした〜い。ひと夏のアバンチュールとかでもいいから〜」


「ごめ〜ん、竜児、待った?」
「いや、全然。それより大河、今日はいつにもまして可愛いじゃねえか」
「ありがと。実はね、この服選ぶのに時間かかっちゃったんだ。ホントごめんね」
「……」
「……」
「……なあ大河、デートの練習ってのはいいけどよ、セリフまで決めてやるのはやめねえか?」
「……そうね。私もあんたの面に似合わないセリフ聞いたら背筋に寒気が走ったわ」
「……ともかく今日の予定を確認するぞ。まず映画、それから食事、最後に公園で散歩でいいな?」
「基本というかベタだけど、まあ初めてだしこんなとこよね」


「おう、これがシネコンってやつか……」
「あんまりキョロキョロするんじゃないわよ、恥ずかしい」
「初めてなんだからしかたねえだろ。へえ、けっこう色々やってるんだな……
 なあ大河、今日はどれ見るんだ?」
「今日私達が見るのはコレよ」
「おう、ホラーか。嫌いじゃねえが、俺はこっちのSFが見てみたいな」
「竜児……忘れたの?今日はデートの練習なのよ」
「お、おう」
「デートで映画といえば恋愛物かホラーじゃないの」
「そうか? 櫛枝だったらアクションとかが好きそうな気がするが……」
「でも私、甘ったるい恋愛物って嫌いなの。だから今日はホラー」
「結局お前の趣味かよ。というか、練習だったらそこまでこだわらなくてもいいんじゃねえか?」
「甘いわね竜児。練習で出来ないことが本番で出来ると思うの?」
「そりゃまあそうだけど、なんか違わねえか?」


「……大河、お前ほんとによく食うな」
「なによ、このぐらい普通じゃない」
「いや、デート中の女子としては多すぎるだろう、明らかに。
 俺は慣れてるからいいけどよ、普通の男ならそんなにガツガツ食べてる姿見たら引くんじゃねえか?」
「……北村君なら優しいから大丈夫だもん。多分……」
「お前、川嶋と弁当食った時に北村の『よく食べるなあ』の一言にショック受けてたじゃねえか」
「う、うるさい。今日は練習だからいいの」
「おい、さっきと言ってる事が逆じゃねえかよ」




「……ねえ竜児」
「おう、なんだ?」
「デートで散歩って、どうなのかしら」
「いや、どうって言われてもな……」
「一緒に居てドキドキしたり嬉しかったりするのはわかるのよ。でもそういうのって、恋人になったら普段からあることじゃない。
 わざわざデートの時にする必要あるのかなって。それならもっと色々遊んだほうが良くない?」
「うーん……俺も経験無いからわかんねえけどよ、二人で一緒に何かをするってのはもちろん楽しいけど、
 ただ一緒にいるそれだけが目的というか、二人でいることの雰囲気を感じるというか、そういうのはまた別の楽しさがあるんじゃねえかな」
「そういうもの、なのかな……」
「隣にいるだけで嬉しいとか傍にいるだけで楽しいとか、そういった事を二人で再確認するとか……
 うーん、自分で言っててやっぱりよくわかんねえかな。悪い」
「ううん、なんとなくわかったような気がする。
 ねえ竜児。竜児は私と一緒にいて楽しい?」
「おう? 改めて聞かれるとどうなんだろうな……なんか一緒にいるのが当たり前になっちまってるし。
 そうだな、お前がメシに来なかったりするとなんか落ち着かなかったり……
 まあ少なくとも、つまらなかったり嫌だったりってことだけは絶対にねえ」
「ふーん……ま、いいか。
 ねえ竜児、手、繋ぎましょ」
「……へ?」
「ほら、デートの練習なんだから、一応それっぽいことはしないと」
「お、おう。それじゃ……」
「……竜児の手、おっきくて暖かいね」
「……大河の手はちょっと冷たくて気持ちいいな」
「うわ、なんか変態っぽい。やっぱりあんたはエロ犬だ」
「お前なあ……それが練習とはいえデート中に言うセリフか?」
「なによ今更。結局今日はデートっぽい会話なんて全然してないじゃない」
「その責任の半分は大河にもあることを忘れるな」

 そんないつものような会話を続けながら、繋がれた手はそのままで。





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