「さて、そろそろ昼飯にするか」
「高須君、何か手伝おうか?」
「いや、すぐ出来るから櫛枝は座っててくれ」
「受験勉強を手伝ってもらった上にご飯までごちそうになって、悪いねぇ」
「気にするなって。自分の復習にもなってるんだし」
「そうよみのりん。竜児は奉仕が生き甲斐みたいな男なんだから、やらせておけばいいのよ」
「大河はもうちょっと気にしろ」


「ところで知っているかね大河。今大河と高須君が下級生になんと呼ばれているか」
「……『手乗りタイガー』とか『ヤンキー高須』とかじゃないの?」
「いやまあ、それもあるんだけどね。実はセットで『美女と魔獣』などと言われているのだよ」
「……『魔』?」
「そう、『野獣』じゃなくて『魔獣』」
「……なんか納得できてしまうのが哀しいわ」
「そうだ大河、高須君の好きな所と嫌いな所、一つずつ挙げてみろって言われたらどうする?
 あ、性格はナシね、あくまで外見のみで。全部とか全く無しってのも禁止。
 大丈夫、高須君には内緒にしとくからさ」
「そうね……好きな所は目かな」
「……目……なのかね?」
「そう。竜児って、あんまり人の顔を直視しない癖があるのよ」
「あー、なんでそうなったかは想像できるねえ……」
「そのくせ真面目だから、人と話をするときはきちんと相手の目を見ようとするの。
 だもんで、普段竜児と話してるとこっち見たり視線逸らしたり、ちょこちょこ細かく動くのがなんか可愛いのよ」
「はー、そんなもんですか……」
「それだけじゃなくてね、真剣な話をする時はものすごくかっこいいの」
「いやまあ、確かに高須君の顔のつくり自体は悪くないけど……」
「じっと見つめられるとなんか気持ちの奥まで見通されるみたいで、心臓がきゅんってなっちゃうの。もう怖いくらい」
「……あー、大河、それじゃあ嫌いな所はどこかね?」
「う〜ん……あえて言うなら、背の高さ、かな」
「一般的には、背の高い彼氏ってのは人気あるもんだけどねえ」
「だって、私から竜児にキスするのが大変なんだもの。別れ際に不意打ちでキスとかやってみたいのに。
 ……あれ? みのりんどうしたの?」
「……いやー、熱いなーって思ってね……」
「ほんと、最近暑いわよねー。でも大丈夫。今日は竜児がデザートに自家製のシャーベット用意してるって」





   ※ おまけ ※

 いかに真面目といえども、竜児とて年頃の男の子。
 恋人とその親友の会話に自分の名前が出てくれば、思わず聞き耳をたててしまおうというもので。
 断片的に聞こえてくるその会話は、
「……高須君……下級生……呼ばれ……」
「……『ヤンキー高須』……」
「……『魔獣』……」
「……納得……」
「……高須君……嫌いな……外見……」
「……目……」
「……顔のつくり……」
「……見つめられる……心臓……怖い……」
「……嫌い……」
「……背の高さ……」


「……ねえ竜児、さっきからなんか元気無いけど、どうしたの?」
「いや、なんでもねえよ……はは……」


 誤解が解けるまでには数日かかったとか。






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