「なんだ、居るじゃないか。インターホンを押しても返事は無いし、昼飯も食いに来ないで」

「あぁ、もうそんな時間か。絵を描いてたら夢中になっちゃて」

目の前には髪を後ろで束ねて、手の平を黒くした小さな画伯が居た。

「へぇ、よくこんな物が有ったな。何て言うんだっけ確か、イー?」

「イーゼル」

「そうそう、それだ」

「昔、習ってたのよ」

「へぇ〜」

画伯はテーブルに果物を盛って、それを描いているようだ。
どれどれ、拝見させてもらおう。

「……………」
「何?気持ち悪いわね。なに人の後ろで固まってんのよ」

「……キュビズム?」

「へぇ、よく知ってたわね」

「…中学で習った」

確か、平面に立体を表す絵画の手法だったっけ?
画伯は果物を手に取り、眺めてはキャンバスに鉛筆を動かすを繰り返して忙しそうだ。俺は台所でも片付けるか。

「これ剥いて」

しばらくすると画伯はリンゴを片手に台所に現れた。

「もうリンゴは使わないのか?」

「飽きた」
「……………」

画伯はもう飽きたらしい。
注文の品を持って行くと、あっという間に完食し満足されたようだ。
それから2人でキュビズムを代表するピカソやブラック、
そしてその影響を受けたアート作品について語ることは無く。
先日2人でフリマに出掛けた際、画伯が大層気に入られて購入した
ぶたミントンで白熱した勝負を繰り広げた。

「やっぱり、これは掘り出し物だったわ」

「そうだな、想像してたより熱くなるな」

「疲れたから少し寝る、片付けといて」

そう指示するとソファーに寝転び丸くなった、画伯が本気で寝る時の体制だ。
黙ってる時の画伯は可愛い、怒ってる画伯は嫌いだ。
つい、眠りに堕ちて行く画伯を眺める。

「……変な事したら、みのりんに言うわよ」

警告を受けて片付けに入る、画伯はいつになったら俺の想いに気がついてくれるのだろか。




作品一覧ページに戻る   TOPにもどる
inserted by FC2 system