「おかわり」
 目の前にずい、と突き出されるマグカップ。
「おい大河、いくらなんでも豆乳飲み過ぎじゃねえか?」
「いいから早くおかわり」
「お前なあ……ここんとこ毎日最低1リットル、下手すりゃ2リットル飲んでるじゃねえか。まあそんだけ言われるままに作った俺も俺だけどよ。
 お前のその……コンプレックスはわかるけど、腹壊しでもしたらどうするんだよ」
「あんたには関係ないでしょ」
「関係無いことあるか。大体、そんな急に大量に飲んだからってどうこうなるもんじゃねえだろ。
 何があったんだよ?」
「うるさい黙れ」
「……わかった、大河がそういう態度をとるなら、しばらくおやつにアイスは無しだ」
「それぐらい自分で買うからいいわよ」
「あいにくだが大河、それも無理だ。なぜならうちだけでなくお前んちの冷凍庫もアイスを保管しておくスペースが残ってねえからな」
「……何よそれは!」
「何って……大豆煮てミキサーかけて絞って豆乳作れば、当然おからが残る。消費しきれないそいつがたっぷり冷凍保存されてるってだけのことだ。
 普通に食べる以外にもハンバーグや餃子の挽肉に混ぜたりクッキーに入れたり、けっこう苦労して使ってるんだが、やっぱり三人だと限度があるしな。
 もちろん豆乳はもう泰子の分しか作らねえが、おからを無理して使うのもやめるからな」
「ぐ……卑怯な……」
「卑怯だろうが何だろうが、大河の行動が明らかに異常なのを放置しておくよりマシだ」
「……あ……」
「あ?」
「あんたのせいじゃないのよ!この馬鹿犬!」
「……へ?俺?」
「忘れたとは言わさないわよ……この間テレビで巨乳アイドルに見とれて『いいなあ……』とか言ってたじゃないの!」
 ……正直心当たりが無い。だが聞き返そうものなら確実に大河はキレる。
 そして間違い無く暴れる。そりゃもう俺じゃ歯が立たないぐらいに。
 必死で記憶を検索……類似事項は一件。だが……
「ちょ、ちょっと待て大河、そいつは誤解だ」
「何が誤解よ。私はこの耳でしっかり聞いたんだからね」
「いや、俺がいいって言ったのは、その前に出てたゴスロリの方でな……」
「嘘! 完全に巨乳が出てからだったわ」
 ……ええい糞、こうなったらもう自棄だ。
「実はだな、あの時俺は、テレビ画面なんてまともに見てなくてだな、
 ……その、ゴスロリ衣装をだな、大河に着せたら似合うんじゃねえかって……
 つまり、妄想してたんだよ! ああもう、変態とでもエロ犬とでも呼びやがれ!」
「……嘘」
「こんな恥ずかしい嘘をついてどうする。
 ……って大河?どうした?」
 一発殴られるぐらいは覚悟してたんだが……何故大河は俯いてもじもじしてるんだ?
「り、竜児がそんなに見てみたいって言うなら、一度ぐらい着てやるのも、や、やぶさかではないわよ」
「お、おう……本当にいいのか?」
「か、勘違いするんじゃないわよ!そう、あんたがアイス駄目とか卑怯なこと言うから!
 アイスのために、しかたなくなんだからね!」
「おう、意地悪言ってすまなかった。おからは何とか工夫して消費するから、嫌なら無理に着ることないぞ」
「べ、別に、嫌ってわけじゃないから。一度着るって言ったからには着るわよ。
 そうね、主人としてたまには犬にご褒美あげないといけないものね」
「だけどお前、真っ赤じゃねえか。そんなに恥ずかしいなら……」
「ああもう人がせっかく着るって言ってるんだからそれ以上グズグズ言うんじゃないこの駄犬ー!」
「何でそこでキレるんだよっ!」




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