事務的な手続きも、
 厳かな儀式も、
 友人達とのお祭り騒ぎも、
 全てを終えて、迎えるは静かな夜。
 今日この日をもって、二人の関係は決定的に変化した。
 恋人から家族に。婚約者から夫婦に。
「えへへ……高須大河、かあ……」
「やっぱ、すぐには慣れねえか?」
「ううん、なんか不思議なくらいしっくりくるの」
「おう、そいつはよかった」
 明日からの新婚旅行に備えて、今夜の宿泊は空港近くのホテル。
 普段着に着替えた二人はベッドに並んで座り、軽くキス。
「ねえ竜児、『警告夢』って覚えてる?」
「おう……あったなそんなのも。高2の夏休み、川嶋の別荘に行く前日だったよな」
「そう、竜児が犬になってて、私に土下座して頼むの。結婚してくださいって」
「それで大河が、俺の頭を踏みつけながら、仕方ないからってOKするんだよな」
「あの夢って、見た直後は最悪の気分だったけど」
「まあ、あの頃の俺達なら仕方ねえよな」
「でもね、旅行の最中になんとなくね、ああいうのも『アリ』なんじゃないかなって、そう思ったんだ」
「おう、奇遇だな、俺も実はそうだったんだよ。大河に殴られそうで言わなかったけどな」
「なによそれ、ひどーい」
「だってよ、あの頃はそうだったじゃねえか」
「まあそうだけど……でね、あの夢って、実は警告夢なんかじゃなくって、正夢だったんじゃないかなって」
「いや大河、それは違うぞ」
「……え?」
「あの夢の俺はさ、一匹ぽっちで、寂しくて、どうしようもなくて……
 どうしようもないから、結婚してくれって頼むんだよ。一匹ぽっちじゃ生きられないからって。
 大河もさ、俺が哀れだから、俺があんまり頼むから、仕方ないからってOKするんだよな」
「うん、そうだった……」
「俺は、そんなに追い詰められたから、他にいないからって大河を選んだわけじゃねえぞ。
 あの頃は色々あったけどよ、俺が、俺自身が大河の傍らに立ちたいから、一緒に幸せになりたいから、大河を選んだんだ」
「うん、そうね、私も……竜児に頼まれたからじゃなくて、私が竜児の傍に居たいから、一緒に生きていきたいから、竜児と結婚したんだもの……」
 大河の眼の端に、じわりと涙が浮かぶ。
「お、おい、大河?」
「ごめん、なんかちょっと、感激しちゃって……」
「お、おう。あ、そうだ、あれだけは正夢になって欲しいな」
「あれって?」
「ほら、夢では犬だったけどよ、その、いっぱい子供いたじゃねえか。俺と大河の」
「そうね。子供、いっぱい欲しいね」
「だろだろ?あ……」
「子供って、ことは……」
 見つめ合って真っ赤になる二人。
「えと、その、だな……」
「うん、もう、夫婦、なんだものね……」

 次の日の朝寝過ごして、あやうく飛行機に乗り遅れそうになる二人なのであった。




作品一覧ページに戻る   TOPにもどる
inserted by FC2 system