文化祭まで一週間を切った月曜日の放課後。

竜児のやり過ぎパワーのせいで展示方針の舵を切ることになった3−Aでは、リーダーを初めとする作業担当による口角泡を飛ばしながらの議論が始まっている。あれにするかこれにするかを話し合っているのではない。
どう進めるかを話し合っているのだ。既に一週間を切った今、好みや考えをベースとした議論など通用しないのだ。全員が同じ方向を向いていないと、絶対に間に合わない。

各班固まって議論をしているが、ここ医学班でも3人ほど固まってあーでもない、こーでもないと話している。

「いけない!」
「おう、どうした湯川」
「昨日お兄ちゃんのバックナンバー調べて面白そうなのをリストアップしといたんだ」
「おお、サンキュー。てか、なんで朝教えてくれなかったんだよ」
「だって、高須君怖かったし」
「…寝不足の顔くらい許してくれねぇか」
「あははー。これがリストね、リーダーミーティングの時に他の人にも見せてあげて」

湯川のまとめたリストは、医学、コンピュータ、数学、物理学に関して、分野ごとに過去一年ほどの記事を列挙してあった。

「いや、今渡しちまおう。他の班も喜ぶだろう。破っていいか?」
「いいよ」

レポート用紙に定規をあてて、竜児が分野ごとにリストを切り離していく。

「ん?この記事何だよ」
「ああ、それ。展示に関係ない分野なんだけどさ。なんかひっかかっちゃって。何がって言われると困るんだけど、関係ある気もするんだよね。高須君わかる?村瀬君はどう?」

村瀬が竜児の手元の紙を覗き込む。そこには、記事の見出しと書き出しの引用があった。

日経サイエンス 2009年09号 「1万年前に来た猫」C.A.ドリスコル pp60
  ネコ(イエネコ)は素っ気ないようで人懐こくもある。
  穏やかなようで獰猛、かわいらしくも腹立たしい。
  態度をころころ変える気まぐれな性格にもかかわらず、
  ネコは世界中でもっとも人気のあるペットだ

「…」
「ねぇ、展示に使えるかな」
「い、いや。使えねぇんじゃないかな」

そう答えながら竜児は、参考のために後で読んでおこうと思った。


(おしまい)




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