川嶋亜美の前に差し出されたのは、甘い匂いを漂わせる袋。
「……何?」
「何って、クッキーだよ。ホワイトデーの」
「あたし、高須君にチョコあげてないわよね?」
「チョコは貰ってねえけど、川嶋には色々と世話になったしさ。
 勿論この程度で返せるとは思ってねえけどよ。まあ気持ちだ、気持ち」
「ふ〜ん、ま、くれるっていうなら貰っておきましょ。
 ……ねえ高須君、その……もう一ヶ月経ったわけだけどさ、大丈夫なの?」
「ん?ああ……正直寂しくないって言ったら嘘になるな。たまにだけど、会いたくてたまらなくなる時もある。
 だけど、みんなで幸せになるって決めたからさ。そのために大河も、同じ空の下で頑張ってることだし」
「ふうん……強いんだ」
「そうなのか?自分じゃよくわかんねえよ。あとはまあ、俺は竜で、大河は虎だからな」
「何よそれ?」
「昔から虎と竜は並び立つって決まってるだろ。だから、たとえ離れてたって俺達は互いの傍らにいるんだよ」
「虎と竜……ねえ。竜虎……は普通すぎるか……タイガー&ドラゴンじゃ長すぎだし……うん、『とらドラ』、かな」
「何がだ?」
「あんた達のことよ。とらとドラゴン、略して『とらドラ』」
「『とらドラ』……うん、『とらドラ』か。なんかいい感じだな、それ。
ありがとうな、川嶋。早速大河にも教えてやるよ」
「……ちょっと待って。今何て言った?」
「ん?大河にも教えてやるって」
「あんた達、会えないんじゃなかったの?」
「そりゃ会いには行けねえけど、けっこう頻繁にメールで連絡はしてるぞ?櫛枝か大河に聞いて無いか?」
「何よそれ!わざわざ心配してたあたしが馬鹿みたいじゃないの!
 あったまきた。あたしもタイガーにメールしてやる。高須君の手作りクッキー貰ったって羨ましがらせてやる」
「おう、よかったら今日だけじゃなくて、ちょくちょく大河にメールしてやってくれよ。きっと喜ぶからさ。
 ちなみに大河の分のクッキーは今日届くように郵送済みだ」
「……ホント、高須君ってば強くなったわ」





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