自分が求めた物は何も手に入らない。そう、ずっと昔から。本当は、あの時引越しなんかしたくなかった。
その学校にも一応話せる人はいたし、優しく接してくれる人もいた。でも、家族が家族なだけ私はそれを拒否し、
どうせ居なくなるなら、最初からいらない。そう拒絶し続けた。そして、話しかけてくれる人も見る見る減り、
丸一日誰とも話さないなんてザラになった。もう慣れた。表向きにはそう思い込み、でも心は真っ赤な血を流し続け、
毎日一人部屋に篭っていた。お手伝いさんが作る料理だけを頬張り、毎日中学へ通う。つまらない。
でも、そんなつまらない日常はある日突然終わった。あのクソ親父が、離れた土地にマンションを購入し、
荷物は見る見るまとめられ、私は熊のぬいぐるみを抱きしめてその光景を眺めていた。他人事のように。
でも、それでも私は構わなかった。そして引越し先で、みのりんに出会い、北村君に恋をして、竜児に出会った。
そして今、想い人である北村君と一緒に…という事にはならず、お互いの恋のサポートをしていた相方、竜児に
恋をした。北村君に抱いていたのは恋だとばかり思い込んでいた。でも実際は違った。北村君に向けられていた
のは、ただの憧れ。誰とでも向き合える、そんな彼に。でも、その偽の恋を成就させるために、犬として傍にいた
竜児に、本当の恋心を抱いた。そして私達はバレンタインのあの日、二人で逃避行を行った。簡単に言うと、駆け落ち。
恋の応援をさせていた奴の素性を知り、気持ちが傾いていく。普通の昼ドラで散々使い古されたようなネタだろう。
でも、私は構わない。私は、とてもロマンチックだと思う。私は竜児が好き。ううん、愛してる。でも、竜児はどうだろう。
我侭で、素直じゃなくて、アイスののべ棒みたいな身体。口も悪くて、すぐ罵声をしてしまう。
こんな女をずっと好きでいてくれるなんて、本人である私にも到底思えない。すぐに愛想を尽かせて離れて行くだろう。
そう思い続け、一人で悩み、苦しんで。そんな気もしらないで、と理不尽な罵声をも竜児は温かく包み込んでくれた。
大丈夫。ママから料理も洗濯もお裁縫もママから習っている。自分でも驚くほど覚えられて、竜児も褒めてくれる。
だから、大丈夫。竜児は私を捨てない。一人にしてどこかに行ったりしない。竜児は私を愛してくれている。
それは確信した。でも…もし、竜児に未練があったら?実乃梨に、私の親友みのりんに、まだ想いがあったら?
ある日突然、別れようなんて言われたら?私は、潔く身を引けるだろうか。みのりんと殴り合いの喧嘩になって
しまうかもしれない。誰かに突っ掛かってしまうかもしれない。もしかしたら、自害するかもしれない。
みのりんに限らず、ばかちーや色ボクロ、ギャル女に私と離れてしまった竜児のクラスメイトが、猛烈なアプローチを
掛けていたら?そしてその子に好意が及んでしまったら、私はどうなるだろう。多分、生きてはいけない。
少し前に、みのりんが私の気持ちを知るために、嘘をついてきた。「私、まだ高須君の事…好きなんだよね。…ねぇ。
大河、私も高須君の事、狙っていい?」彼女にとっては思いつきの、下らないいつもの冗談だったに過ぎない。
心ではそう思っていても、分かっていても、両手に拳を作ってしまった。今までにないくらいの目つきでみのりんを
睨みつけた私を、みのりんは冗談だって!なんて笑い飛ばしたのだ。あの日ほど、怖かった事はない。
元々みのりんと竜児は両思いだったはず。それが、私にはとても嬉しくて。友達が相思相愛の恋人なんて素敵。
そう思い続けていたのに、零れる涙の雫を止める術は、見つからなかった。
あの冗談をきっかけに、私の不安はむくむくと膨らんで行った。振られたら、どうしよう。そう考えるのだ。
竜児と致す時も、眠る時も、キスをする時も、登下校中も、私は竜児の想いを聴く。言って、と懇願する。
そうしないと自分が壊れちゃう。デート中に竜児の目があっちら、こっちらと動くのにも意識してしまう。
もちろん毎回聞く度に、竜児は「愛してる」と呟いてくれる。それがとても嬉しい。
でも、他の女の子と話す所を見るだけで、胸が張り裂けそうになる。
だから私は今日も尋ねるの。再会してから、殆ど毎日尋ねる質問を。しつこいぞ、と頭を小突かれるくらいしつこい質問を。
「ねえ竜児。竜児は私の事──」








* * *


「あーあ」
「おい」
「またやっちゃってくれたわね…何度言ったら分かるのかしら、このうすらハゲは。あれ程たらたら長文書くなって言ってるのに、
まだ懲りてないのかしら、この筆者。頭に虫でも沸いてるんじゃないの」
「曰く、『本当は狩野すみれを出すはずだった。でも予想外に長くなったのでパッツンしました』だってよ」
「www」
「やめろ!草生やすな!あと笑い方が気持ち悪い」
「だって、すみれ出すつもりでしたー、だって。そういう問題じゃなくてもっと会話を入れろと。回想なんていらないと。そう言ってるのに
まだあのバカ会長を出すつもりだったんだって。笑う以外ないわ」
「メモ帳に会話とか入れてたけど結局使わなかったらしいな」
「で、そんな些細なことよりも内容よ。ナニコレ、アイスののべ棒って。自害って。ふざけてんの?」
「あぁ、少なからず、些細にも、健気にもあるのにな。おまけレベルで」
「これ終わったらこっち来なさい竜児」
「ハイ。で、肝心なのは自害ってのだな。絶望に暮れて自害なんてよくある話だが…そんなの大河に限ってないよな」
「あったりまえじゃない。そんなのする前にあんたの肢体を死体に変換してやるわよ」
「おう…できれば勘弁願いたいが、まぁ浮気なんてしねぇわな。大河もしてないよな?」
「………」
「…おい、大河。うそだろ?」
「実は私、他に好きなものができたの」
「おい…冗談だろ?」
「ほんと…。最近、チャーハンよりオムライスが好きになってきたの」
「よし次だ」
「フッ…流石はスルー検定2級持ちね。でもそろそろ筆者の指が限界よ」
「おう、右手の中指に感覚がねぇな。じゃあ終わりにしよう。では最後に大河一言」
「えぇ、私? んーと、んーと」
「ワクワク」
「ぬぐぐぐ…ないわ…見つからない。〆のいい言葉が、答えが見つからなぁい!」
「そんなに難しく考えるな。ほら、リラーックスリラーックス」
「うおおおお…ぬおおおお!あああ『ぷぅ〜♪』…あ?」
「…お前…お芋さんの恨みでも買ったのか?場違いすぎるだろってくっさ!」
「〇×◆○×△Ξ!!」
「おおう!目も当てられない姿に!では皆さん、お勉強もお仕事も、頑張ってください!では!」





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