毎度毎度大河に殴られ蹴られ罵られていた竜児だったが、実はただ攻撃を受け続けていたわけではなかった。

大河の攻撃パターンを検証し、回避の方法を模索していたのだった。



大河の最初の攻撃は右手の目潰し攻撃。最初に急所を狙うとは。卑怯でもあるが戦闘においては実に有効であった。

次に右のローキック。そしてそのまま右ストレートを顔面に。

相手が揺らいだ瞬間に左のストレートをみぞおちに直撃させる。



大体の奴はこの左ストレートでKOされる。もちろん俺もだ。だがもうそうはいかない。このパターンはもう揺らぐことはない。

何故なら、3回ほどこの攻撃でKOさせられているからだ。



竜児はこのノートを大河ノートと名づけた。というか、なんで自分の彼女の攻撃パターンをこのノートに記さなければならないのかと思いながら書き続けていたのだが。



そして、ついにこのノートが役に立つときがきたのだ。たまには大河に敗北感を与えるのも悪くないのだから。






「ふん、よくもまあそんな減らず口が叩けるもんだわ。」
「今までやられ続けてきたが、大河。もう昔の俺じゃないぜ。」
「今なら謝れば許してあげる。」
「俺が何で謝らなければならない?」

なぜ、今このような状況に陥っているのか。それは大河は肉が食べたいといい、竜児は昨日食べたから今日は鮭だといい、口論の末に・・・以下略

「そう。ここまで言っても折れる気はないみたいね。黙って夕飯は肉にしていればいいものを・・・」
「肉肉言いやがって、お前はル○ィか。海賊王にでもなりたいのか。」
「ほお・・・どうしたの?竜児。随分今日は強気じゃない。何か良い事でもあったの?」
「ふん、甘いな大河。もう俺は負けねぇ。お前に勝つために色々と策を練ってきた。」
「私に勝つ?・・・ふふ。じゃあやってみる?」

ジリジリッと徐々に間合いを詰めていく二人。そして疾風の如く大河が手をチョキにして竜児の両目めがけて飛び込んだ。
「あめぇよ大河。」
「えっ?」
見事に空振り。竜児の読み通り最初に目潰しを繰り出した大河は自分の手を眺め、次第にせせら笑う。




「ふふふ。ふーん、やるわね竜児。私の攻撃を避けるなんて。」
「だから言ったろ?昔の俺ではないと。」
「じゃあこれならどうよっ!!」
やはり右のローキックが竜児の左足を襲うが、ジャンプ一閃ひらりと避ける事ができた。
「なっ!!」
大河の勢いよく繰り出された右のローは空を切り、その反動で大河はその場に倒れこんだ。
「どうした?大河。お前らしくもない。」
見上げるとそこには不気味な笑みを浮かべる竜児が。大河にとって初めての経験だろう。
「くっ!この!」

それから大河の攻撃は竜児には当たる事がなかった。
「なんで!?なんで当たんないの?こんな事、ありえない!」
「どうだ、大河。もう降参か?」
「こ、降参っ?誰がっ!」
「そうか、じゃあもう終わりにしような。」
そう言うと竜児は大河を正面から抱きしめた。
「んなっ!何すんのよ竜児!離せっての!」
「負けを認めるか?今日は鮭でいいか?3つ数えるから考えろ。過ぎたらこのまま・・・」




「キスしてやる。」

「うえぇぇぇぇぇ!!??」
「はい、さーーーん。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!」
「にーーーーー。」
「りゅ、竜児ってばっ!!」
「いーーーーーーーーーーーーーーーち。」
「・・・・・・・」

そして大河は目を瞑った。

「ん?」
唇に感触がない。パチリと目を開けるとそこには笑いを堪える竜児が。

「くくく・・・冗談だよ。嘘に決まってんじゃねぇか。」
「・・・・・・え?」
「よし、しょうがねぇ。買い物行くか。」
「・・・・・・ちょっと。」
「ん?どうした?」
「っ・・・・・・しなさいよ。」
「何を。」
「キス。」

キスキスホイホイ?





作品一覧ページに戻る   TOPにもどる
inserted by FC2 system