竜児 「よーし、大河はロウソクを立ててくれ、10本だ」
大河 「分かった。このテーブルに円を描くように立てればいいのよね?」
竜児 「おう。竜河は大河の立てたロウソクに火を付けてくれ」
ルカ 「はーい」
竜児 「誰から始める? やっぱり言い出しっぺの俺からか?」
大河 「そりゃそうよ、あんたがやろうって言い出したんじゃない。はい、電気消したわよ」
ルカ 「ロウソクの火だけだと、すっごく雰囲気出るね……ワクワクしてきた!」
竜児 「なんだ、竜河は高校でこういうのやったことねえのか? 合宿とかで……」
ルカ 「うーん……怪談話は友達とやったことあるけど、本格的なのは初めてかな」

竜児 「それじゃ、今からおまえら2人とも恐怖のどん底に突き落としてやるからな……ふふふふ」
ルカ 「……うわぁ、お父さん、その顔……」
大河 「ロウソクの火だけで見ると、まんまホラーね、あんたの顔って……それだけでもう普通の人なら恐怖のどん底だわ」
ルカ 「だよね……自分の親ながら……これは引くよ……」
大河 「ほんっと、竜河は竜児に似なくて良かったわよねぇ?」
ルカ 「うんうん。事ある毎にお母さんの遺伝子に感謝してるよ」
竜児 「おまえらなぁ…………まぁいい、話し始めたら茶々入れるんじゃねえぞ?」

「「はーい」」


竜児 「よし、これは実体験に基づく話だ。あれは何年前になるだろうな……俺が車の免許を取って割りとすぐだったな、たまたま北村が暇でさ、2人でドライブに出掛けたんだ」
大河 「あんた、取り立ての頃はしょっちゅう運転してたもんね。私は飽きたから行かなかったけど……北村君まで巻き込んでたの?」
竜児 「おう、まぁその頃の話だ。ちょっと遠出したかったが目的地が無いのも寂しいからさ、○越隧道ってところに行ってみた」
ルカ 「お父さん、隧道(ずいどう)って何?」
竜児 「ん?あぁ、トンネルだな。だけど俺が行った所は短いトンネルが連続で続いてるような場所で、トンネルとトンネルの間には普通の民家もあったりする」
ルカ 「へぇ……」

竜児 「そこの第三と第四トンネルが心霊スポットらしくてさ、その石造りで古めかしいトンネルを行ったり来たりしてたんだよ」
ルカ 「いかにもって感じだ……」
竜児 「何かが起こるんじゃねえかって期待して、トンネルを抜けた道幅が広いところでUターンして、何度も何度も同じトンネルを通ってたわけだ」
大河 「危ない事するわねぇ……対向車が来たらどうするのよ?」
竜児 「いや、それが全く車を見なかったんだ、結構な時間往復してたのによ……」
大河 「ふーん」



竜児 「で、しばらくすると、町の方から一台のパトカーがやってきたんだ。そして俺の車が停められた」
ルカ 「お父さん、怪しすぎたんじゃない? 死体を捨てに来た893さんに見えたとか……」
大河 「ありえるわね、それ。あははは!」
竜児 「だから茶々入れんなって。そんでさ、免許証見せたらその警官がこう言うんだ……」
竜児 「『危ないことばかりしていないで、早く帰りなさい!』ってな。ものすごい勢いで言われてさ……正直ビビった」
大河 「へ……へぇ……」
竜児 「ただ往復してただけだし、俺はスピードもそんなに出さないだろ? だから不思議に思って聞いてみたんだ」
竜児 「何がそんなに危ないんですか? ってさ、そしたら……その警官がこう言ったんだ……」
ルカ 「…………ゴク」

竜児 「『さっきこの辺に住んでる人から通報が入ったんだよ、屋根の上に人を乗せて行ったり来たりしてる車がいるって』……って」
大河 「…………ひぃ……」
竜児 「俺は北村と顔を見合わせた。2人とも車の屋根になんか登ってないからな……」
ルカ 「ま、マジで?」
竜児 「おう、マジだ……俺も北村も怖くなってな、その警官に頼んで、先導してもらって町まで帰った」
大河 「そそそそりゃそうよね……そそそそんなところに一秒たりともいたくないわっ!」

竜児 「幹線道路まで出たところで路肩に止まって、警官が降りてきたんだ」
竜児 「そして、『あんたたち、からかってるのかい? また屋根の上に登ってただろう? バックミラーに映ってたよ』……って」
ルカ 「う……わぁ…………」
大河 「……………………」
竜児 「二人とも耐えられなくなって車から降りたんだ。そんなことしてませんって言いながら、そしたらよ……」
大河 「ここここっち見るなバカ! ……竜河の方見なさいってば!」
ルカ 「いやいや、いい、いい、いいです!」

竜児 「俺のいつもピカピカにしてる車の屋根に……こう……赤黒い泥にまみれた足跡みたいなものと……手形みたいなものが……びっしり付いててよ……」
ルカ 「きゃあああああああぁ!」
大河 「ぎゃああああああああああああぁ!」
竜児 「……俺はそれを雑巾で拭き取って、逃げるように帰ってきたわけだ。 おしまい」


大河 「うぅぅ……竜児のバカ……最初は軽いのって言ってたのに……」
ルカ 「あーあ、お母さん涙目になっちゃった。後でどうなってもしーらないっと」
竜児 「おう? 軽めの話のつもりだったんだけどな……まぁいいか、ロウソク一つ消すぞ」 ――フッ
ルカ 「このロウソクを消すのって、どんな意味があるの?」
竜児 「本当は100本だけどな、今日はコンパクトに10本。それを全部消すと……恐ろしい事が起こるんだ」
ルカ 「ひえぇ……顔が……顔が怖すぎるよー!」
大河 「ふ、フン! そんなの何かの間違いよっ! わわ、わ、私はしししんじないっ!」
竜児 「その割には震えてんだけどな、大河…………だけどな?」



大河 「何よ? まだあるの……?」
竜児 「ああ、その汚れきった屋根を見て、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。一瞬で怖いって気持ちも吹っ飛んだ。俺の車が汚れてて良いわけがないだろう?」
ルカ 「あ……はは……いつも磨いてるもんね……」
竜児 「帰り道の途中、北村がこう言ったんだ……」
竜児 「『いやぁ、今日は怖い体験をしたな、高須……だが俺は……非常に言いにくいんだが、屋根を拭いてるお前の方が100倍怖かった』……と」
大河 「………………」
竜児 「ちょっと夢中になりすぎたみたいだ、ははは」
ルカ 「………………」

竜児 「そう言えば……雑巾を取り出して気合を入れた時に警官が悲鳴を上げた気がするけど……気のせいだろうな」
ルカ 「……そう……だと……いいね……」
大河 「そりゃー屋根の上の幽霊より、隣に座る狂気の男の方が100倍怖いでしょうよ……」
ルカ 「え? 今のが実話って事は、いつも乗ってるあの車でしょ? なんか怖くない?」
大河 「大丈夫よ、竜児の顔は魔除けだから……きっと拭き拭きしてる間に逃げちゃったわよ」
ルカ 「そっか!」

竜児 「………………ま、まぁ……俺の話は終わりだ。んじゃ、次は誰だ?」
? 「……はいっ!」



つづく?





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