「はいっ!」
「おう、竜河。よし、次行ってみろ」
「うん、あのさ、うちの高校に伝わってる話なんだけど」
「うちのって…、あんた、私達の学校の後輩じゃない。竜児、うちって怪談話あったっけ」
「いや、無かった気がするぞ。俺とお前が知らないだけかもしれないけど。竜河、俺たちが卒業した後の話か?」

竜児と大河が顔を見合わせ、そしてそろって竜河を見る。大橋高校は、そもそも脳天気すぎて怪談話なんかなさそうな気がするが。もっとも、そう言われても、竜河にはよくわからない。よくわからないから怪談話なのだ。

「うぷぷぷ、独身の怨念だったりして」
「言ってやるなよ。だいたい独身も、もう独身じゃないんだから」
「でも…ぷぷぷ」
「おう、竜河。続けろ」
「うん」

話の腰を折られていちいち怒っていては、高須家の一人娘は勤まらない。

「あのさ、随分前の話らしいんだけど」
「おう」
「ある男の子が夜中一人で寝てたらしいのね」
「何言ってるのよ、高校生にもなって親と寝てる子なんていないわよ」

薄い胸をむやみに偉そうに張って大河が混ぜ返す。

「そう言う意味じゃなくて。どうもその子は親の帰りが遅いらしくて、いつも夜は1人で寝てたらしいのね。だからその晩も遅くまで1人で勉強したあと、誰もいない家でいつものように1人で寝てたの」
「…」

混ぜ返されても動じずに低い声で話す竜河の様子に、大河はちょっと怖くなったのか口をつぐむ。

「その子はきちんとした子でさ、寝る前にちゃんと火の始末と戸締まりはしてたのね」
「…」
「で、いつものように寝たんだけど、ふと、2時過ぎに目が覚めたらしいのよ。そんなことは普段は無いんだけど。おかしいな、って思って、気がついたらしいのね」
「な、何に気がついたのかしら」
「風が入ってきてるのよ。変よね。窓はちゃんとしめたのに。その子はあれ?と、思ったのよ。閉めたはずなのに。でも、窓が開いてるの」
「な、何よ。とと戸締まりしたって、いい言ってたじゃない。変なの」

明らかにびびった声で大河が無理に笑ってみせる。ああ、きっと鳥肌立てているなと思うが、一方で竜児はいやぁな予感。

「それがね、その窓は鍵を掛けてなかったんだって。そんなところから泥棒が入ってくるはず無いから。でも窓が開いてたの。おかしいなと思って閉めたんだけどさ、後ろから見られているような気配」
「わかった!」

竜児が遮る。こめかみを押さえて苦痛の表情。

「何よ竜児。いいところなのに」

いいところ、という顔はしていないが、これからというところで話を遮られて大河がふくれている。こいつはいつもそうだ。櫛枝に借りたホラービデオは、いつも大騒ぎして目をつぶっているくせに、消すと怒りやがる。

「いや、その。これがすごく怖い話だってのはわかった。だから、もういい。怖いから。本当に怖いから」

そう言って、竜児は大河をガン見。いい加減気づけ馬鹿!と目からビームを出して鈍い大河にメッセージを送り込む。

「え、お父さんこの話知ってるの?」
「お、おう。知っているとも。大河も知ってる。な、な、大河そうだよな!あーほんと、思い出しただけで背筋が凍るぜ。死ぬほど怖い話だ。さ、さ、次行こう!竜河、ローソク消せ」
「ちぇ、つまんない」
「竜児、あんた」
「あー!わわわわわーっ!怖いな−!次、行こう、よーしっ!次の話誰か行け!」

こうして、100物語省略版高須家編その2は結末を見ないまま終わった。Nice boat.






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