竜児は浴槽に満たされた熱い湯にゆっくりと体を沈める。
「ふう……」
思わず声が漏れる。
風呂は命の洗濯……まったく昔の人は上手い事を言ったものだ。
ここ数日の目の回るような忙しさで溜まった疲労が、ゆっくりと湯の中に溶けていくようだ。
目を閉じると、そのまま意識を手放してしまいそうになる。
と、
「竜児ー、入るわよー」
返事をする暇もあればこそ、宣言から一瞬も待たずに突然扉が開く。
咄嗟に視線を逸らすが,視界の端を掠めたその裸身は間違いなく――逢坂大河。
(ななな、何で大河が?)
先程までののんびり気分は一瞬で吹き飛び、頭の中は疑問符の嵐でパニック状態。
そんな竜児の心境を知ってか知らずか、ざばーっと湯をかかる音と「ふいー」とかのんびりした声が耳に入る。
……振り返ればそこには一糸纏わぬ大河がいる。
竜児とて男だ、見たくないわけがない。
だが、見たらその後に待っているのは間違いなく死。
それ以前に竜児の倫理観が、恋人でもない女子の裸身を無遠慮に眺めるなどということを許さない。
「お、俺、先に上がるな!」
どうにか股間を隠しつつ、湯船から飛び出して脱衣場へ。その途中、ちらりと見えてしまったのは真っ白な背中とその下のまろやかな曲線……
目が覚めると、畳の上に倒れていた。
関節をぎしぎしと軋ませながら身を起こすと、1時間程の時間が過ぎている。
どうやら少し体を休めるつもりで横になったまま意識を手放してしまっていたらしい。
「は、はは……なんて夢見てやがるんだ、俺は……」
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