「じゃーん!これなーんだ?」
 大河が取り出したのは、大きくてやや薄い本のようなもの。
「っ!おい大河、まさかそれ……」
「見た所アルバムのようだが……逢坂のか?」
「北村君惜しい!」
「高須君の反応からして、高須君のアルバムでしょ?」
「ばかちー正解!この間竜児んちで見つけて、やっちゃんに借りてきたの」
「ほほ〜う、ということはこの中には高須くんのご幼少のみぎりのあんな姿やこんな姿が……」
「ふっふっふ、みのりん期待してていいわよ。ホントに凄いから」
「ま、待て大河!それだけはやめてくれ!」
「問答無用!いくわよ、ご・開・帳〜!」
 竜児の制止も虚しく大河は表紙をめくり、
「……」「……」「……」
「「「ぶわはははははっ!!」」」
 一瞬の間の後、北村、実乃梨、亜美――三人揃って大爆笑。
「ね?凄いでしょ?」
「……だから嫌だったんだ」
「い、いやすまん高須。しかしこれは……ぶふっ!」
「ひー、く、苦しい……これマジ反則だっての!」
「た、高須くん……ち、ちっちゃいのに……目が、目が……」
「私も初めて見た時は本気で噴いたわ。竜児ってば赤ん坊の頃から今と目付きが変らないんだもの」
「ああもう、好きなだけ笑いやがれ……」

「うっわ、何コレ」
 亜美が指差した写真には、小学生ぐらいだろうか、痛々しく頬の腫れ上がった竜児が。
「どれどれ……『名誉の負傷☆』とか書いてあるね」
「これは……喧嘩の後か?」
「あ、それは私も気になってたのよね。やっちゃんに聞いてもいまいち要領を得ないし」
 期待に満ちた四つの視線に、不貞腐れていた竜児も身を起こす。
「おう……こいつは小学四年の時だな。ちょうどこっちに引っ越してくる前日だったんでよく覚えてる。
 荷造りとか粗方終ってさ、ヒマになったんで近所の公園で遊んでたんだよ。そしたら六年生の悪ガキグループが小さな女の子に絡んでてさ、やめさせようと割り込んだらぶん殴られた」
「それで、高須くんはやり返したのかね?」
「いや、それがさ……直後にその女の子が、俺を殴った奴の後ろからこう、思いっきり股間を蹴り上げて」
「うわ……それは……」
 思わず自分の股間を抑える北村。
「なんか信じられないぐらい強い子でさ、残りの連中もボコボコにして追い払っちまったんだよ。思わず拍手したくなるぐらいあっという間に。
 で、倒れてた俺を見下ろしながら一言、『情けない男』って」
「何よ、高須君ってばいいとこ無しじゃない」
 ケラケラと笑う亜美。
「まあそうなんだけどな。で、帰ってから泰子に話したら『竜ちゃんえらかったねぇ〜』って言われてあの写真ってわけだ」
「……ねえ竜児、その女の子ってひょっとして、その後に転ばなかった?」
「おう、そうだった。駆け寄ったら『ほっといてよ』って言われちまってさ。
 ただ、膝に怪我してたんで、頼みこんで手当てだけさせてもらった。
 といっても傷口洗って包帯代わりにハンカチ巻いただけだけどな」
「それでその子が『ハンカチ、洗って返すわよ』って言ったら、『いいよ、俺、明日引っ越しちまうから』ってそのまま帰っちゃったのよね」
「おう、そういや名前も聞かなかったな……って大河、それ知ってるってことは、まさか……」





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