川嶋家の別荘から帰ってきてから特に予定も無く、夏休み中の課題でも終わらせようと竜児と2人で協力し合ったら
アッという間に終ってしまい、これで本当に何もすることが無くなってしまった。

そんな暇を持て余した私たちに朗報が!
隣町で大きなお祭りがあるらしい、予定なんて無いから互いに目を見て頷くだけで『行くぞ!!』の合図、さっそく出掛ける準備を始めた。

ドレッサーに座り髪を解きながら考える、お祭りと言えば浴衣。でも竜児と2人で出掛けるのに着飾っても意味ないかな?ちょっとオシャレするくらいで良いや。

「竜児、準備出来た?」
「オゥ!出来てるぞ」

玄関に出て来た竜児はTシャツにジーンズ、やっぱり私も気合いを入れた格好なんてしないで正解。
浴衣なんて着ても色々と面倒なだけだしね、だけど北村君が一緒なら話しは別だけど。

電車で隣町まで向かい、会場に近づくに連れて人の波が大きくなる。

「あんまり離れるな、迷子になるぞ」
「アンタこそ、ちゃんと私に付いて来なさい!」

会場に入ると色とりどりのライトに照らされた屋台がズラリと並んでいる、この無駄に強すぎるライトの光がお祭りに来たって実感させるのよね。

「さぁ、宛も無くぶらぶらするわよ!これがお祭りの醍醐味よね」
「そうだな、でもあんまり食い過ぎるなよ」

「分かってるわよ!それよりくじ引きはダメよ、あんなの当たりなんて入って無いんだから。私は食オンリーでいくわ!」

お祭りの楽しみ方を竜児にレクチャーして今からが本番、香ばしいニオイや甘い香りにつられて自然と体が動く。
アレも美味しそう、コレも美味しそう、あぁ目移りしゃちゃう!

「竜児、それ美味しい?」
「あぁ旨いぞ、一口喰うか?」
「どれどれ…パクッ!ウンウン、なかなか美味しいわね」
「お前のソレはどうだった?」
「一つだけなら良いわよ」

お互いに最初は信頼のおける物を買うからハズレはない、でも段々とお祭りの雰囲気に呑まれて冒険したくなるから不思議。

「アレ美味しいと思う?」
「どうだろうなぁ?」

見るからに危険な物はお互いに牽制仕合い、なかなか自分からは手を出さない。こんな駆け引きも普段は味わえないお祭りならではの醍醐味だわ。



「この後に花火があるんだって、当然見るでしょ?」
「う〜ん… 花火まで見ると帰りの電車がスッゴい混み合うぞ?」

「別に良いじゃんそれくらい、せっかくの夏休みなんだしさ」
「大河が良いって言うなら俺は構わないけど」

「じゃあ決まりね!花火が良く見えそうな所に移動しましょ」

いざ場所取りと思ったけど、屋台から少し離れた場所は既に人で埋まっている。
結局場所を探してさまよい歩き、辿り着いたのはお祭り会場になってるグランドの端に設置してあるフェンスの前。
ここも人で一杯だけど何とか1人分のスペースを確保した。竜児がフェンスに寄りかかって、私が竜児に身体を預ける。

「こんな間近で花火を見るのも久しぶりだな」
「私も、最後に見たのは何時だったかなぁ」

花火が夜空に咲く度にドン!と空気を揺らし、それと同時に歓声が上がる。
日頃の煩わしいことを全て忘れ、夢中で花火を見上げた。

「綺麗だったね、花火」
「なかなか良かったな」

お祭りの余韻に浸りながら駅へと向かう道。駅に向かう人達は皆黙々と歩いてる、このお祭りの後の虚脱感は何なんだろ?

「やっぱりスゲエ混みようだな」

駅は人でごった返していた、これじゃ切符を買うだけでも時間が掛かるな。

「もう人混みはウンザリだわ、歩いて帰りましょ」
「歩いてか?ここからだと1時間以上は掛かるぞ」
「良いじゃない、涼みながらでも帰りましょ。それともサウナみたいな混み合ってる電車の方が良いの?」
「それは確かに嫌だな、仕方ない歩くとするか」

駅を離れ大通りを歩くけどまだ人の波は途切れない、同じ事を考えた人や近隣に暮らす人達なんだろう。
これじゃ電車をパスした意味がない、それにこの集団と一緒に歩いてると疲れた感じがする。
みんなお祭りで魂を抜かれたみたいに黙々と歩いてるし。

「竜児、こっちの裏通りに入ろうよ」
「道知ってるのか?」

「知らないけど、方角さえ間違えなかったら大丈夫でしょ?それに知らない所を歩くのって冒険してるみたいでワクワクするじゃない」
「そうだな、人混みはもうウンザリだし悪くない提案だ」

通りを一つ変えるとそこは別世界だった、古びた商店が立ち並ぶ懐かしい感じの通り。
こんな時間じゃ開いてるお店なんて無く寂しげだけど、お祭りの賑やかさから解放されて落ち着くし涼しげな感じがして心地良い。



「何だかレトロな感じの通りだな、タイムスリップしたみたいだ」
「私の言った通りでしょ?」
「あぁ、ただ歩いてる帰るより楽しいな」

それから竜児とアレが懐かしいとか子供の頃の思い出話をしながら歩いた。
でも立ちっぱなしの次は歩きっぱなしで流石に疲れたな。

「大丈夫か?次に公園でも有ったら休憩しような?」

疲れたのが顔に出てたかな?何も言わないのに竜児は疲れを察してくれた。
まぁ普段から周りを気にしてばっかりだし、今更驚くことでもないか。アンタはそんなに気ばっかり使ってたら若くしてハゲるわよ。

「あれって公園じゃない?」

公園は直ぐに見つかった、見た目は鬱蒼と樹木に覆われて少し不気味?

「表は不気味だったけど中は結構良い感じね」
「こんな所に森林公園が有ったなんて知らなかったな」

遊具などは無く周りを木々に囲まれ中央には芝生の広場、あとは所々にベンチが置いてあるシンプルな公園。

さっそく芝生の上に寝転んで体をグッと伸ばしてみる、空を見ると綺麗なお月さまが白く輝いていた。
その光は公園の木々を照らして街中とは思えない幻想的な雰囲気を演出している。

「今日は楽しかったな」
「そうね、私も楽しかったわ。でも本当は私とじゃなくてみのりんと来たかったでしょ?」

「…まぁ、そうかもな。でも今日は大河と2人だったから楽しかったのかもな」

何なの?その煮え切らない答え方は、別荘で何かあったの?



「みのりんと何かあったの?」
「櫛枝とは別に何も無い。でも最近気がついたんだけどさ、俺は大河を好きみたいなんだ」

「ハァ?アンタ自分で何を言ってるか分かってんの?月夜の雰囲気に呑まれて勘違いしてんじゃない?」
「確かにそうかもな、俺は櫛枝のこと好きだし」

何を晴れやかな顔して訳が解んないこと言ってのよ、本当に大丈夫なの?

「櫛枝を好きって想う気持ちと、大河を好きって気持ちは何か違うんだよ」
「俺たちはさ、いつも一緒に居るのが当たり前の事になってるだろ?まるで家族みたいに」

「あぁ、そうゆうことね。確かに家族とか、そうゆう意味では私も竜児のことは好きよ」
「川嶋の別荘に行って思ったんだけど。櫛枝と過ごす時間より、大河と二人で居る方が俺は心地良いんだよ。
何かさ、櫛枝と二人きりだと緊張するし」

「それって別荘で北村君と二人きりになって、私がアンタに話したことそのまんまじゃない。私をからかってんの?」

「そんなつもりじゃ無い、お前の話を聞いて気づいたんだ。それに本当に分からないんだ、櫛枝のことは好きなんだけど、大河とも一緒に居たい」

「矛盾してるわよ、そんなの」
「だよな…」

「でも竜児の言ってることも分かるわ。私も北村君が好き、もしつきあうことになって竜児と一緒に居れなくなるなら素直に喜べないかなぁ」

「そうだろ?俺も同じなんだ、櫛枝と上手くいったら大河とは離れないといけないかと思うと喜べない」

気づかないうちにお互いが離れられない存在になっちゃったのか、嬉しいけど複雑な気分だな。
それにこんな曖昧な関係を続けてたら誰一人幸せにはなれないよ。



「竜児、この話は止めよ。こんな中途半端じゃ全部がダメになっちゃう」
「そうだよな」

「でもね… もし竜児がみのりんに告白して想いが叶わなった時に、今と変わらず私を好きって想ってくれるなら
その時は一人の男性として竜児を見てあげるわ」

「本当か?」
「ウソよ!アンタ最低ね。そんな保険みたいなのに頼らないで、ちゃんとみのりんに告白すること!」
「スマン…」

「…でもそんなに私のこと好きなの?」

「あぁ、好きみたいだ。…ゴメンな迷惑なこと話して」
「うぅん、私も本当は凄く嬉しい… 竜児が私をこんなに想ってくれてるなんて、ありがとう」

「…そろそろ帰るか」
「うん」

気まずさは無かった。
寧ろ私の中に芽生え始めていた気持ちを竜児に伝えられてスッキリした。

「あのさ、手を繋いでも良いか?もちろん今日だけ良いからさ」
「う〜ん… じゃあね、私も今だけで良いから、私だけを好きって言って」

「大河のことが好きだ。だから、いつまでも俺の隣に居てくれ」
「…うん」

そんな迷いも無く『好き』って言われたら私はどうすれば良いのよ、まだお互いに好きな人が居るのに。
でも相変わらず感性を疑いたくなるヤツよね、竜児って。
今のは告白と言うよりプロポーズよ。

「でもそんなに想ってくれてたのによく黙ってられたね、家ではいつも2人っきりなのに」

「何でだろうな、2人で居る時は何も意識しないんだ、でも大河が他のヤツと居ると意識してしまう、ぶっちゃけヤキモチかもな」
「妹を盗られる兄の気持ち?」

「オマエ… こんだけ俺が本音で話してるのに意地悪なこと言うよな」

「嘘だよ、ウ・ソ!ゴメンね。お詫びに家に着くまでは竜児の恋人になってあげるから」

繋いだ右手を離し、竜児の左腕を抱きしめ少しだけ身体を預けて歩くと幸せな気分になれた。
本当はいけないことかもしれないけど、またこんな感じで竜児と過ごせる時間を迎えることができれば良いなと月夜の晩に願いを込めた。




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