ルカ「あーあ、お父さん知ってたのかーつまんなーい」
竜児「ま、まぁそう言うなって、世の中には知らない方がいい事がいっぱいあるんだぞ?」
ルカ「ふーん。まぁいいや! それじゃ次は、私が見た怖い夢の話していい?」
大河「怖い夢? 怪談じゃなくて?」
ルカ「うーん……夜中に起きた時に見た怖い事なのか、怖い夢なのか……いまひとつハッキリしないんだ」
竜児「そんなこともあるよな……それなら俺たちに途中で止められる事も無いだろうし、いいんじゃないか?」

ルカ「それじゃーいっきまーす!」
大河「はいはい、分かったわよ。ドンとこーい!」
ルカ「あれは、私がまだ小さな頃……たぶん小学校低学年あたりかな」
竜児「あの頃は可愛かったよな……大河よりちっこくって……」
大河「うるさいのよ……ったく、人が気にしてる事を……」
ルカ「あーもう! 黙って聞いてよ、そこ!」

「おう」 「はーい」

ルカ「ゴウンゴウンっていう耳鳴りがひどくって、1人でベッドで目を覚ました事があったの。
   ううん。覚ましたような気がしたのかも……それで、部屋には豆電球が付いてたんだけど、なんかね、
   周りの家具とかドアとかが迫ってくる感じで、自分がどんどん小さくなっちゃうみたいな感覚があって
   それで今も夢なのかな?って思ってるんだけど、その時おトイレに行きたくなったんだ」
竜児「……ほうほう」
ルカ「で、部屋から出て階段を降りてる間、耳鳴りがずっとしてて、むしろどんどん大きくなってく感じなの。
   なんでか知らないけど、私は電気を付けてなくって、それで階段を降りたらね……聞こえてきたんだ」
大河「…………な、何が……かしら?」
ルカ「いちま〜い……ブツブツブツ……に〜ま〜い……ボソボソ……って」
竜児「……おう」
ルカ「地の底から聞こえてくるような不気味な声だった……
   ブツブツ言ってる途中でヒッヒッヒみたいな笑い声も聞こえてきてて……」
大河「…………やだ」
ルカ「その方向を恐る恐る見てみると、そこは洗面所だったの、お風呂場のね。
   それで……そこから薄い光が漏れてて……でもその光が、いつもの白い光じゃなくって、
   赤っぽい、ピンクっぽい感じで……すっごく不気味だった。私は戻ろう戻ろうって思ってたんだけど、
   足が勝手に引き寄せられるような感じで……その中を覗いちゃったんだ……」

「「…………」」

ルカ「そして私は見たの! 見てしまったの!!!」
大河「ひ……ひ――――っ!」
竜児「大河、落ち着けって!」




ルカ「そこに耳まで裂けたような凶悪な顔をした不気味な男がいたの! にたぁぁぁって笑ってた……
   それで、それでね! その男の目がもう……怖くって怖くって……その後も何度か夢に出てきたもん!」
竜児「お、おう……どんなんだ?」
ルカ「悪魔のように邪悪そうな目ぇしてた! 人としてあり得ないくらい釣り上がってて……
   そう、白目がね、白目の部分があり得ないくらい広くって!」
竜児「ん?……どっかで聞いた……ような……」
大河「そうね……どこかで聞いた言い回しよね……」
ルカ「なんて言うんだっけ? あの目のこと……これがまた黒目が小さくてこっわーーーいの! もうマジで!」

竜児「…………三白眼……の事か、竜河?」
ルカ「そう! それそれ! でね! その悪魔みたいな男が手に赤いものとかピンク色の物体を持っててね……
   こう……洗面台のライトの前にかざしては、よんま〜い……って言って、にたぁぁぁって笑って、
   さも可笑しそうに喉の奥で笑うの……」
大河「それ……って……ねぇ、竜児?」
竜児「あ、あぁ……どう考えても……」
ルカ「きゃーーー怖い! 思い出したらホラ見て! さぶイボ! やっぱりあれは夢だったと思うんだよね、
   っていうか思いたいよ! 怖い怖い、あれは怖かった……私の人生で一番怖かったもん!」
大河「………………」
竜児「……………………」


ルカ「あれ? ちょっと2人とも、今の怖かったでしょ? なんで無反応なの?」
大河「それ……きっと…………ううん、絶対に竜児よ」
ルカ「へっ?」
竜児「あぁ……その外見的特徴といい、やってた事といい……俺だ。100%俺だ。」
ルカ「うそ……」
大河「ぷ…………ぷーっ!!! 悪魔みたいだって! 人としてあり得ないだって!」
竜児「ぐっ……さ、さすがにそこまで言われると堪えるな……竜河……」
大河「実の娘にここまで言われちゃったわねー! くっくっく……あーっはっはっははは!」
ルカ「えーっと?……あ、あは……あはは……お父さん?」
竜児「まさか娘の一番怖い記憶が……俺だとは思わなかった……」
大河「きゃーっははははははは! もう死ぬ! 笑いちんじゃうううぅ! 助けてえええぇ!」
竜児「俺は…………おれ、は…………」

ルカ「だ、だだだ、だって! あんなところで何やってたの? 何を数えてたの、お父さん?」
竜児「あぃ……赤やピンクってことは、下着だろうな……大河の下着……かな?」
ルカ「えぇ!?」
大河「……まぁそうよね、私のだわ。きっと洗濯ネットから出して、伸ばしたりしてたのかしらね?」
竜児「シワになっちまうからな。それに、ちゃんと汚れが落ちてるかチェックしてたんだ」
ルカ「お……お母さんの下着を、洗面台のライトに照らして……汚れがないかチェックしてた……の?」
竜児「おう、大事なところを守るものだからな。当たり前だろ?」
ルカ「うっわぁ…………あ、さぶイボ……さっきよりひどい」




大河「女物の下着を数えてたってのも変態的だとは思うけど……その時にブツブツと何言ってたわけ?」
竜児「ん……あぁ、あれか。『きれいになったねパンツちゃーん』とか……」
大河「………………」
ルカ「……………………」
竜児「『型崩れは大丈夫かい、ワイヤー無しブラ子ちゃーん?』とか……普通言うだろ?」

「言わないわよ!」 「言わないよ!」

竜児「うおう!? なんだ2人ともそんな勢い付いて……特に大河はだらしなかったからな……俺がいつも……」
大河「あんた……死にたいらしいわね……」
竜児「たっ、大河!? 待て待て! その木刀を床に置け、危ないから! 危ないから止めろ!」
大河「言うに事欠いて……ワイヤー無しブラ……だぁ?」
竜児「いや……それは……」
大河「えぇそうよワイヤーありませんよ悪かったわねでもあんたに迷惑掛けた掛けてないわよねっ!!!」
ルカ「うわ……こっわ……」
竜児「おおいおいおいおい、待て! いくら竜河がワイヤーあるからってそんなに怒んなって!」

ブチッ――

大河「ふうううううううん!!!」

バシィ!――

竜児「いってええぇ!? 手の平が痛てぇ!? おい、本気で振り下ろしたな、大河……」
大河「当たり前よ、あんたもう許さないわ……娘の前でこんな辱めを受けるなんて……っ!」
竜児「やめっ! っと……ダメだぜ大河。この木刀はもう離さねえぞ? なんたって俺の命が掛かってるからな」
ルカ「え?え?何でお父さんそんな事知ってるの?……って、ちょっちょちょっとお母さん!?」
大河「んー? 何よ、今いいところなんだから邪魔しないでよね、竜河……」
ルカ「わた、わ、わわわ、わわ、私の下着は!? まままままままさかお父さんが洗ってるわけじゃないよね?」
大河「大丈夫よ、最近はずっと私が洗濯してるから……この変態主夫に触らせたりしないから安心なさい?」
ルカ「あぁ……良かったぁ……ありがとうお母さん! ほんっとありがとう!」
竜児「なんだよ……俺はおまえらの事を心配してだなぁ……?」
大河「だから、それが余計なお世話だって言ってんのよ!」
ルカ「ジロジロ下着を見るなんて、お父さんもしかして変態なんじゃない!?」




竜児「ああ、そう言えば……先週末は大河いなかったから、俺が洗っておいたぞ?」
ルカ「…………ひっ」
大河「あんたねぇ……私がやるって言ったじゃない!」
竜児「だっておまえ、溜めすぎなんだよ。1回じゃ終わらなかったぞ?」
大河「う、うるさいな、いいから早いところこの手を離しなさいってば!」
ルカ「……わ、わた……私の……した…………」
竜児「おう、そうだった、竜河。言うの忘れてた、おまえの下着にシミが残って……」
ルカ「いやあああああああああぁ!!!」

スパーン!――

竜児「ぐおっ!? し、竹刀……なんか……どっから出しやがった……」
大河「いい面(メン)ね、竜河……やっぱり剣の道に進んだのは間違いなかったわね、ふふん」
ルカ「おおおおお父さん変態! エッチ! 最っ低っ!!!」

バシィ!――  バシン!――  スパーン!―― 

竜児「いて! 痛てえよ!? おまえ段持ちだろ! こっちは手が塞がってるんだか……いってぇ!?」
大河「竜児、どうあっても私の木刀……離さないわけね? いいわ、竜河に借りるから……」
竜児「え…………」
ルカ「はいっ、お母さん! パース!」

パシッ――

大河「おっけ! 片手なのが遺憾だけど、この際しょうがないわ。あ、手ぇ離したらもちろん木刀で殴るからね?」
竜児「いやいやいや……待てよ2人とも! 待てって! つーか何で予備まで部屋にあんだよ、訳わかんねえよ!」
大河「あーら知らないの? 剣の心得ってやつよ」
ルカ「お父さん! 剣道着は汗かくの! ちょっと汚れちゃってもしょうがないの!」

竜児「お、おうっ!? 俺としたことが……そいつは気付かなかった。大変じゃねえか……汗だくなんて……」
大河「は?」
ルカ「へ?」
竜児「そんなに手強い汚れがあったとは……血が騒いでしょうがねぇぜぇ! ふ、ふふふふふ……」

にたぁぁぁ――

ルカ「ひいぃ!? あの時の顔だ! 怖い! 寒い! キモイ!」
大河「こ……のっ、顔面凶器がっ! 娘にこれ以上トラウマを与えるんじゃないよ!」

竜児「任せておけ、竜河! これからは毎日俺が純白に洗い上げてやるぜ、おまえのパン……」

ルカ「い―――や―――っ!!!  お父さん信じらんない! 信じらんない信じらんなーいっ!」
大河「いい加減、黙らっしゃい! いっそ死んで! しになさぁ―――い!」

竜児「ぎゃああああああああああああああぁ!」



――――こうして高須家の百物語は終わりを告げた。




end



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