「突然で恐縮だが『埋めネタ』という言葉をご存知だろうか。この文章の読者層に通じるかどうか不明ではあるが『寂しい草原に埋めてくれるな』という某映画の挿入曲のぱくりをしようというわけではない。
はたまた、毎年判で付いたように小学1年生が鉢に植えている朝顔の種でもない。かといって、はやりの山中死体投棄について語ろうというわけでもない。
埋めネタとは、一般的には某巨大掲示板などと呼ばれる電子ネットワークの某所において、同じテーマで語られるスレッドが一杯になってきたときに使われる言葉である。スレッドが一杯になってきたら、書き込み禁止になる前に次のスレッドを作る必要がある。
作ったら作ったで、今度は古いスレッドをちゃんと埋めるのがマナーである。しかし、新しいスレッドがあるならばそちらを使いたいのが人の常。そこで、有ってもなくてもいいような、あるいは読んでも読まなくてもいいような心底何の役に立たない、
今風の言葉で言うならば『誰得』、そんな何の価値もない文章を書き込んで古いスレッドを埋めるのである。これがいわゆる埋め立てであり、埋め立てに使う文章のアイデアが埋めネタである。
というようなことを考えながら、夏休みも押し詰まってきたある日、俺はじりじりと焼き付けるような日差しを避けて日当たりの悪いアパートの一室に閉じこもったまま日が落ちるまで活動停止を決め込んでいたのであるが、もちろんというかなんというか、
神様はこういう時に決して俺を見逃してくれない。どうやら俺にとって安寧を望むというのはとてつもなく身の程知らずな望みであるらしく、というのはつまり、俺の後ろにいる奴がこんな事を言っているのである」
「ちょっと!何ひとりでぶつぶつ言ってるの!私が発言しているときにはちゃんと私の方を向いて敬意をもって聞きなさいよ!それがあんたに課せられた義務よ!」
「………」
「………」
「出だし、しくじったな」
「そうね、すごく遺憾な感じよね」



「おう、ということで気を取り直して埋めネタ行こうぜ。次スレも立ったしな」
「そうね、前回は長編投下中だったし、すごい勢いで作品が投下されてて………って、竜児、ちょっとタイミング早すぎない?」
「そうか?次スレが立って、事実上書き込みが始まってるんだし、ここは埋め立てようぜ」
「そうじゃなくってさ、あと10KBでしょ。5千文字じゃない。私達の手持ち、数えたら4千文字しかないわよ」
「…………気づいたか」
「なによそれ」
「大河、よくきけ。あきらめろ」
「え?」
「いいか、よく見て見ろ」
>>526
> 次は埋め用ギシアンでも作りますか。
> それでは〜
「ちょ、何よこれ」
「何よこれじゃねぇ。埋めネタのギシアンを作ってる作者が居るんだ」
「嫌よ!ギシアンだらけになるのが嫌だから必死でネタ考えてるのに」
「まぁ、お前の気持ちもわかるが、スレとしてギシアンは大歓迎だし、そもそも、これを書いている本人も嫌いじゃない」
「へぇ?」
「これを書いてる奴の書くお前が嫌ってるだけだ」
「なによその変な設定」
「変も何も、そう言うわけだ。このスレの途中でネタは弾切れになるあきらめろ」
「ちっ」




「まぁ、しょうがないわね。文句言っても仕方がないわ」
「おぅ、珍しく前向きだな」
「あら、私はいつも前向きよ。ということで、そう言う展開なら私にも水増しの用意が必要ね」
「……って、おい、なんだよそれ」
「あらやだ。忘れたの?竜児ったら若いのに物忘れが激しいのかしら。私達二人のなれそめじゃない」
「俺が聞いてるのはそう言うことじゃねぇ。なんで、木刀なんか持ってくるんだって言ってるんだよ!」
「それは…ねぇ」
「うわっ!いきなり突いてくんな!」
「黙れ。竜児、あんた謝んなきゃいけないことがあるでしょ。埋めネタないならここでさっさとやっちゃいなさいよ」
「え、謝るって…俺は何一つやましいことはしてないぞ」
「そうね、私に謝る事なんか無いわよね。あんたは私みたいな女を全力で愛してくれてる。それはとっても幸せなことよ。でもね。これとそれは別。私に謝ることはなくても、読者様にあやまることはあるでしょ」
「読者様…?」
「どうしてもしらを切るのね。仕方ないわ。これ読めば思い出すでしょうよ http://tigerxdragon.web.fc2.com/kako/kako07.html#R493
「こ、これは……」
「どう?わかったでしょ」
「いや、ちょっと待て、これ俺が言ってることになってるけど書いたのは」
「うるさい!あんたが言ってるんだからあんたが謝れ!」
いや、お恥ずかしい限りです。『そう。あの時、俺はお前の袖を引っ張ってる。元気付けてやりたいけど、手までは握れないんだ』とか書いていますが、まさにそのシーンこそ原作で初めて二人が心を込めて手を握り合うシーンです。
ちゃんと確認して書け、馬鹿、と言われても仕方有りません。すみません。
「おう、どうやら俺が謝る必要はないようだな」
「ちっ」
「何で残念そうなんだよ!」
「だってこれ書いた奴が謝っても、私ぶっ殺せないじゃない」
「だからって俺をぶっ殺すな!」
「まあいいわ。それにしても、ちょっとはいい話っぽかったのに台無しよ。イラストまで描いてもらえたってのに」
「おう、あのイラストよかったな」
「絵を描ける人がうらやましいわよね」
「虎注のひとだな」
「続き楽しみだわ」
「気長に待ってようぜ」



「ねぇ、もう作品について語ってよ。でないとまたAA貼るわよ」
「でも作品語りって痛いだろ」
「仕方ないじゃない、またギシアン書かれちゃうわよ」
「わかったよ。えーと、何について話そう」
「何でもいいけど、痛くない話」
「くっ。あ、作品について語るのお前の役割じゃん」
「ぴーぴー」
「下手な口笛吹きやがって」
「仕方ないわね。ギシアン期待している読者には申し訳ないけど、私達の尊厳を守るために前の前の前のスレの続きをやるわ」
「尊厳…まあいいか。続きってなんだっけ」
「竜児が鈍感犬って話」
「う、頭痛が」



「何の話から始める?」
「なぁ、大河。この、シュークリーム食べないか?」
「うわぁ、おいしそう!ね、竜児。これ食べながら竜児が鈍感犬って話しよ!」
「くっ、やはりごまかしきれなかったか」
「前の前の前のスレの終わりって何の話だっけ…あ、糸の比喩か」
「暗喩って言わなかったか」
「それ、これ書いてる奴の間違い。書いてる奴はわかってたけど、ついうっかりってとこね。とらドラ!は暗喩と比喩が入り乱れていて面倒なのよ」
「たとえば?」
「4巻でみのりんが話す幽霊の話は比喩、5巻でたこ焼き食べるシーンの染みの話は暗喩ね」
「比喩と暗喩はどうちがうんだっけ」
「意識して、はっきりと何かのたとえにされるのが比喩よ。4巻ではみのりんが恋の相手のたとえとして幽霊を使っているわよね。恋の相手というより、運命の相手と出会えるか、運命の相手が現れるかって意味だけど」
「そうだな」
「実はこのあとのUFOの話もあとで重要になるんだけど、話が長いからやめとくわ」
「お、おう。難しいな」
「で、暗喩は違うの。なにかの予兆を匂わせるだけ。登場人物が自発的に使ってるわけじゃない」
「ちょっと待て5巻のたこ焼き…ああ、兄貴のクラスで北村と3人で食った話か…これ、単にお前がドジやって汚したって話だろ」
「………」
「おい、どうした」
「ごめん、竜児。頭が痛い」
「大丈夫か、薬持ってこようか」
「あ・ん・た・が・ば・か・す・ぎ・て・痛いのよ!」
「ててて!こめかみがへこむ!やめろっ!急所だろ」
「殺してやろうかしら。竜児、死んでもちゃんと私の側に居るのよ」
「お前はロマンチックなのかアホなのかわかりずらいな」
「いい?とらドラ!は5巻からは恋愛小説だけどラブコメも薄いなりにあるの。ぼけたら突っ込むの。私がドジったらあんたが救うの」
「あ」
「それがなされてないって事は、意味があるでしょ」
「なーるほど」
「まったくもう。5巻の213ページから引用するからその目かっぽじってよく見なさい」
「目をかっぽじったら見えねぇだろうが」
「うるさぃ!
『実乃梨の件で悩んでいたとはいえ、それはあまりにも不覚だった
ソースは大河のシャツの襟にも垂れていた、だけどその汚れに気づく者はおらず、竜児もまったく気がつかず、そのシミは随分時間が経ってから、ようやく発見されたのだ。
見つかったときには、二度と消えない、竜児にも消せないシミに、なってしまっていた』
どう?なにか感じない?」
「えーと、これはだからドジ…待て待て早まるな。暗示してるんだよな。たとえだよな」
「それで?何を暗示してると思う?」
「えーと。心のシミ?」
「そんなところね」
「どんなシミなんだ?」



「それははっきりとはわからないわ。暗示しているだけだもの。考え方としては二つあって、短期的な暗喩と長期的な暗喩。短期的な暗喩なら、ここで言うシミはくそオヤジに私が傷つけられるって話よ」
「おう、なるほど」
「長期的な暗喩なら、もっとぼやけた物になるわ。つまりこの傷から始まって、私がずっと苦しむだろうってこと」
「なんだか頼りないな。それなら短期的な暗喩だろ」
「ところが、これはたぶん長期的なものよ」
「なぜ」
「5巻の傷は5巻の中で閉じないからよ」
「え?でも5巻でお前北村と踊ってたろ」
「はぁ、竜児の鈍感加減にはあきれるのを通り過ぎて殺してやろうかと思うわ」
「わかったわかった、教えてくれよ」
「278ページ
『その手は震えていない、その足も震えていない。両目を明けてしっかりと、二人の顔を刻み込む。それでも波打ちそうになる心の地平を力一杯踏みしめて思う。ただ一言、大丈夫、と。』
これ、あんたとみのりんが私の為にゴールしてくれたシーンの心象風景としては、あまりにも寂しすぎない?」
「…なんだか別れの風景みたいだな」
「その通り。次に291ページ
『私ならだいじょうぶなのに、と』
これ、北村君と踊るシーンよ。おかしいでしょ?」
「あきらめてるな」
「そ。わかった?」
「…………お前、このときから『ずっと一人で生きる』って思ってたのかよ」
「それは違うわね。でも、そうなるかもしれないって強く思ってるわ。北村君の事は、たぶんこの頃から恋が叶って欲しいという気持ちと、どうせ願いは叶わないって気持ちの間で揺れてる。好きだって事は変わらないんだけどね」
「………」
「そういうことなのよ。4巻まではドタバタなのに、4巻の終わりで急に私は竜児が離れて行くってことを意識する。そして5巻のイベントは、私に心の傷を刻み込む。それは新しい傷口じゃなくて、あんたにあって少しずつ癒えていた古くて深い傷口なのね。
竜児は私の為に走ってくれたけど、結果的にみのりんと一緒にゴールする。私は二人の仲直りを喜びながら、却って竜児との別離を強く確信してしまう。やっぱり、何一つこの手ではつかめないかもしれないって思うようになる。
そして傷口は開きっぱなしになるんだけど、竜児は気づかない。傷口が開いているのに竜児が気づくのはずっと後。それを暗喩しているのがさっきのシミよ」
「………」
「だから、さっきのシミの話を一言でまとめると、こうなるわ。『竜児の鈍感犬』」
「面目ねぇ」
「竜児、しっかりしてよね」
「ああ。なあ、大河。このシリーズやめないか?」
「どうして」
「正直、聞いているのがつらい」
「そうねぇ。じゃぁ、次回から竜児がネタを考えて。ネタが無いときにはこれ続けるかも」
「うう、なんとかするわ」
「それじゃぁ、皆さん、機会があったら会いましょう」
「だれにいってるんだ?」
「バイバーイ!また見てね!」
「こりゃまた古い」





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