「どうしよう」
先程の実乃梨とばかちーの口喧嘩のせいだろう。
何となくぎこちない空気の中、木原達が楽しみにしていたガールズトークもすることなく皆早々に床に就いた。
真っ赤になった顔を隠すように布団の中で丸まっているがさっきから眠れない、竜児に抱き締められていた時の感触が消えない。
忘れなきゃと思えば思うほど竜児の匂い、ぬくもり、息遣いが鮮明によみがえって来る。
実乃梨との中を応援しなければならない私がこんなのでいいのだろうか?いいはずがない。
でも、ダメだダメだとはわかっていてもこの体が竜児を求めてやまない。もっともっと抱き締めて欲しいと思ってしまう。
そもそも竜児もズルイのだ。男達四人、あんなところで何をしていたのか知らないが、襖から出て来るやいなやいきなり抱き締めて引きずり込むなんて。
今まであんなに触れられたことなんてなかったのに私が竜児のことを意識した途端にそんなことしてくるなんて。
ばかちー達の話題が私に移って外に出にくい雰囲気になってよかったのかもしれない。
あのままいたら抵抗することも出来なくなって竜児に身を委ねてしまっていたかもしれないのだ。



それだけは絶対にダメだ。この思いだけは誰にも知られるわけにはいかない。
だっていくら思っても届くことのない思いなのだから。竜児が好きなのは実乃梨だ、そう自分に言い聞かせる。壊れそうな心には目を向けないで。
そういえば、今日の口喧嘩を聞いていてやっぱり実乃梨は竜児の事を何とも思ってないわけではないと確信できた。たぶん好きなのだろう。
だったら竜児を拒んだのはなぜ?決まってる、私のせいだ。私には竜児が必要と実乃梨が思っている限り竜児を受け入れることはないだろう。
だったら竜児がいなくても私は大丈夫、と思わせるしかない。
でも…でも一体いつまで頑張れば私は竜児への思いを消すことができるのだろう?強くなることができるのだろう?
ずっとずっと息が苦しくてたまらないのに。
長い長い旅路のような夜が続く…




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