「……社長、今時街角でモデルのスカウトって、古くないっスか?しかもこんなイナカで」
「いいの。えてしてこーゆー所にこそ金のタマが眠ってたりするもんなのよ」
「タマじゃなくて卵っスよね、それ」
「五月蝿いわね。ごちゃごちゃ言ってないであんたもイイ男捜す!
 言っとくけど、そのへんに転がってるようなのじゃ駄目よ。なんか強烈なアピールポイント持ってるようじゃないと」
「はいはい、そんな簡単に見つかりゃ苦労はないんスけどね」
「……見つけたわ」
「へ?どこっスか?」
「ほらほらあそこ!駅ビルの前!」
「え〜っと……ひょっとしてアレっスか?確かに強烈っていうか目が怖いんスけど……周りの人が避けてるっスよね」
「あの研ぎ澄まされた刃のような眼差し……間違いないわ、あの子は磨けば光る原石よ!
 そう、コンセプトはワイルド&クール!」
「ワイルドっていうか、只のワルっスよね」
「なよなよした草食系ばっかりの世の中に、一匹狼がガツンと殴り込みをかけるのよ!」
「一匹狼って実際には群を追い出された、むしろ落ちこぼれらしいっスけどね」
「あ・ん・た・は・さっきから余計な事ばっかり言ってるんじゃないわよ!」
「痛い痛い!痛いっス!こめかみグリグリは勘弁して下さいっス〜!」
「さて、問題は声をかけるタイミングよね……何してるのかしら」
「さっきから腕時計チラチラ見ては眉根寄せてるっスから、待ち合わせで相手が遅れてるんじゃないっスか?」
「……あんた、ホントに視力だけは無駄にいいわよね」
「いやあ、照れるっス」
「どうせなら待ち合わせの相手が来てからのほうがいいかしら……別タイプのイイ男かもしれないし」
「あ、来たみたいっスよ……うわ、小さいけどすごく可愛い女の子っスね!
 社長、どうせならあっちの子スカウトしたほうがいいんじゃないスか?」
「……帰るわよ」
「へ?声かけないんスか?」
「あんた、相手の女の子が来た時のあの子の顔見てなかったの?
 まー緩んじゃって、あれは狼なんかじゃないわ、犬ね犬。それもバッチリ調教済みのやつ」
「はあ……そんなに緩んでました?アタシには笑っても怖い顔にしか見えなかったんスけど……」
「デレっデレだったじゃないの。そうか、待ってる時の様子はあの女の子心配してただけだったってワケね。
 ワイルドなんてとんでもない、根っからマイルドだわ、アレは。あーあ、あたしの勘も鈍ったかしらねー」
「社長は勘以前にセンスが……」
「何か言った?」
「いえ、何も」




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