風呂からあがって体を拭いてから、竜児は着替えを持ってくるのを忘れたことに気がついた。
「しまったな……」
 さっき脱いだ服を着るという手もあるが、
「ま、いいか」
 大河が帰った今、家の中には竜児一人きり。自室までのほんの数メートルぐらい、裸でも別に構うことはない。
 まあ気分的に全裸というのもなんなのでバスタオルを腰に巻き、脱衣所の扉を開けたら大河が居た。
「……竜児、あんた露出狂の気もあったわけ?」
「た、たた、大河!お前、帰ったんじゃなかったのか?」
「テキスト忘れたから取りに来たのよ」
「おう、それなら明日の朝渡すつもりだったんだが……」
「あら、そうなの。で、何でそんなに変態をこじらせちゃったわけ?」
「変態じゃねえ。単に着替え出すのを忘れてただけだ」
「ふーん……」
 大河の視線はずっと竜児に注がれたままで。
「な、なんだよ」
「この間みのりんとちょっと話したんだけどね、竜児って意外にいい体してるのよねー」
「そ、そうか?」
「何よ、自分のことじゃないの」
「いや、あんまりそういうの気にした事ねえからよ」
「それなりに筋肉あるし余計な脂肪はあんまり無いし、まあうちのクラスでは上位に入るんじゃないかって、みのりんが」
「お、おう、そうなのか」
「ニヤつくんじゃないのよこの裸犬。まだ続きがあるんだから」
「ら……って、続き?」
「そう、確かに体格は悪くないけどね、それを全部台無しにしてるのがその黒乳首なのよ」
「く……くろっ……」
「まともに見ればやたらと印象に残るし。そうでない時も妙に視界の隅でチラチラチラチラと。
 この前なんて夢に出てきてうなされたわよ。いっそのこと毟り取ってやろうかしらねそのゴミレーズン……」
「ひぃっ!」
 思わず胸をかばう竜児。
 その拍子にバスタオルがはらり……と。
「おうっ!」「ひぁっ!」
 咄嗟にバスタオルを掴む竜児。くるりと後ろを向く大河。
「な、なに汚いモノ見せようとしてるのよこのエロ犬!」
「わ、わざとじゃねえ!事故だ事故!」
「あーもう、これ以上変なモノ見せられたらたまらないから帰るわ」
「おう帰れ。さっさと帰れ」

 階段を下りた大河は、道端で足を止めてふと考える。
 なんで竜児の体から視線を逸らせなかったんだろう。なんで妙に動悸が早くなったんだろう。
「……きっとあの黒乳首のせいね」
 おそらく蛍光灯の光かなんかのせいで催眠効果を発揮していたのだ。
 でなければまるで自分が竜児の体に見蕩れていたようではないか。
 北村君ならともかく、竜児に対してそんなことがあるはずがないのに。
「やっぱり毟り取ってやろうかしら……」



作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system