「……ねえ竜児、竜児はどうやってそんなに料理上手くなったの?」
「どうやってと聞かれてもなあ……小学生の頃からやってるから、まあ経験の積み重ねってやつだな」
「でも、最初はなんか教科書みたいなのあったんじゃないの?」
「いや、実は大方のレシピ本ってやつはさ、基本的な知識や感覚は身につけてる前提で書かれてるから、初心者には逆にわかりにくかったりするんだよ」
「ふーん、そうなんだ……」
「まあ目玉焼きからスタートして、始めの頃は塩胡椒で焼くだけとか炒めるだけとか……煮物は泰子の見様見真似だったな。
 で、そのうち慣れてくるとなんとなく味付けの感覚とかわかるようになってきてさ」
「……なんとなく、なんだ」
「おう、俺はわりと目分量だぞ。まあ菓子関係と、本のやつとかを初めて作る時はきっちり計るけどな。
 だけど大河、急にどうしたんだよ」
「だって私、竜児の、お、お嫁さんになるわけじゃない」
「お、おう」
「それならやっぱり料理も出来るようにならないといけないかなって……竜児が覚えた方法なら、上手くなれるんじゃないかって思ったんだけど」
「だったら、俺が教えてやるよ」
「でも私、目玉焼きもちゃんと作れなかったのよ?」
「あれはほら、北村にいいところ見せようとして無理したからじゃねえか。きちんと手順を確認しながらやれば大丈夫だって」
「でも……」
「あー……俺だって最初から上手く作れたわけじゃねえさ。焦がしたり味が濃かったり薄かったり……」
「そうなの?……なんか想像できないんだけど」
「けっこう悩んだりもしたんだぜ。そんな時になんかの本で、『どんな料理だろうが、百回も作れば上手くなる』ってのを見てさ」
「ひゃ、百回!? それはまた遠大な話ね……」
「そうでもねえぞ、三日に一回でも一年かからねえからな。まあ、要は習うより慣れろって話なんだが」
「私にもできるようになるかな……?」
「おう、なるなる。俺が手取り足取り教えてやるからよ」
「なんかその表現は微妙にエロ犬を感じるわね……」
「エロくねえ。あ……」
「どうしたの?」
「考えたら、大河の初めての手料理は北村に食われちまったんだな……くそ、今更だがなんだか悔しくなってきたぞ」
「……大丈夫よ竜児、その前にクッキー食べてるじゃない……失敗作だったけど」
「おう、そうか、あれが初めてだったか。へへへ、そう考えると嬉しいな」
「あの頃からきちんと勉強してれば、今頃こんなふうに悩まなくてもよかったんだろうけど……竜児のご飯が美味しすぎたから」
「俺のせいかよ!?」
「だって、確実に美味しい物が出てくるんだもの。そりゃ自分で作る気も無くなるわよ」
「おう、そいつはすまなかった。それなら尚更俺が責任を持って大河に料理を仕込まないとな」
「お、お手柔らかにね?」
「まあ、慌てることはねえさ。これから時間はたっぷりあるんだからよ」
「そうね。ところで竜児、さっきから妙にニヤついてるのは何で?」
「いや、ほらよ、料理を教えるってことになれば、大河と一緒に居られる時間が増えるじゃねえか」
「……」
「な、なんだよその目は」
「私もそれは考えないでもなかったけどね、なんかそうやって下心全開で言われるとちょっと引くわー」
「し、下心言うな」
「そのうち料理にかこつけて裸エプロンとか言い出すんじゃないでしょうねこのエロ犬」
「言わねえよ!」



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