「ねえ竜児、私の欠点って何だと思う?」
「なんだよ突然……」
「敵を知り己を知れば百発百中って言うでしょ」
「うーん、微妙に違うが意味的にはそれほど違わない気も……」
「やっぱり北村君に好きになってもらうには、自分の欠点を把握した上でそれを直さないといけないと思うのよね。
 だけど自分で自分の欠点ってなかなか気づかないものでしょ?」
「それで俺に聞くわけか。言ってもいいけどよ……それで怒ったり殴ったりってのは無しだぞ」
「……わかったわ」
「まず、大河はドジだよな」
「ぐ……」
「それから口が悪い。俺の事だってすぐに駄犬だのグズ犬だの言うし、普通だったらドン引きしてるぞ」
「……あんたは引かないわけ?」
「まあ、慣れちまったからな。あと、すぐに手が出るだろ。いきなり木刀持って夜襲とか、普通しねえぞ」
「そ、それだけ?」
「まだまだあるぞ。生活態度がだらしない、面倒くさがり、ねぼすけ、意地っ張り、思い込みが激しい、わがまま、人の話を聞かない」
「わ、私ってひょっとして駄目人間……?」
「いやまあ、そこまで悲観する事もねえんじゃねえか?」
「……え?」
「誰だって多かれ少なかれ欠点はあるもんだろ。それだけを列挙すればそりゃひどい人間にも見えるけどよ、実際にはそんな単純なもんじゃねえだろ」
「そ、そうなのかな……」
「大体、北村がちょっとやそっとの欠点で人を嫌いになるような奴かよ。川嶋のことだって、人当たりの良い外面より腹黒な本性でも嘘じゃないほうがマシだって言ったんだぞ」
「それじゃ、私……今のままで、いいのかな……?」
「ずっとそのままでいいとか、長所があれば短所を直す必要ないとまでは言わねえけどよ。
 無理することはねえんじゃねえか? 性格なんてそう簡単に変えられるもんでもねえし」
「……そうよね。うん、なんか元気出て来た!」
「たださ、一つ気になることがあるんだけどよ」
「……何?」
「お前、北村が絡むと途端に自意識過剰っていうか、情緒不安定になるじゃねえか。それも、悪いほうに振れることがけっこう多いだろ?
 俺の勝手な思い込みかもしれねえけどよ、なんかさ……大河は幸せな未来ってのが信じられないというか、妙に臆病になってるように見えるんだよ」
「……」
「だからさ、その……大河は、もっと自分が幸せになれるって信じたほうがいいんじゃないかって、思うんだよな」
「……黙って聞いてれば、好き勝手な事を言ってくれるじゃないの」
「た、大河?」
「誰が幸せになることに臆病ですって?冗談じゃないわ、私はいつだって北村君との幸せな未来を夢見てるわよ」
「お、おう、それならいいんだ」
「大体ね、よくもまあ人の欠点をあげつらってくれるじゃないの」
「大河が言えって言ったんじゃねえか」
「ああ、そうだったわね。それじゃお返しに竜児の欠点も教えてあげるわ。まずは目付きが悪いでしょ、それから黒乳首、あと基本的にヘタレで優柔不断」
「ぐぅ……いきなり気にしてる所を……」
「デリカシーは無いし男のくせにいちいち細かいし、グズ犬でエロ犬でキモ犬、ああ、犬の分をわきまえずにご主人様に文句つけるってのもあるわね。
 ……あら竜児、机に突っ伏したりしてどうしたの?」
「う、うるせえ……どうせ俺は……」
「これぐらいで落ち込んでるんじゃないわよ。
 ねえ、中華まん食べたくなっちゃったから買ってきて」
「おい、さっき飯食べたばっかじゃねえか」
「いいでしょ、食べたいんだから。ほら早く」
「……ったく、しょうがねえな。なんかリクエストはあるか?」
「新作あったらそれで。無かったら肉まんでいいわ」
「おう、それじゃちょっと行ってくる」
 立ち上がり、財布を手にして外に出る竜児。
 ドアが閉まる瞬間、その背に向かって大河は小さく呟く。
「ああ、もう一つあったわ。竜児、あんたは優しさ過剰よ」




作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system