「はい、高須君」
 そう言って亜美が竜児に手渡したのは小さな包み。
「おう……って、これ何だ?」
「亜美ちゃん特製の、愛情た〜っぷり込めた手作りクッキー」
 亜美のセリフに、教室中(特に男子)がざわつきだす。
『また高須か……!』『なんであいつばっかり……』
「な〜んちゃって。本当はね、雑誌の企画で作ったクッキーのおすそわけ。この間プールのお詫びも兼ねてね。
 あ、でも、亜美ちゃんの手作りなのは本当だよ?」
 チワワの瞳に悪戯っぽい光を宿らせてにっこり微笑む亜美。本性を知っている竜児でさえ思わず見蕩れそうになる。
「お、おう、ありがとな。ありがたく食べさせてもらうよ」
「後で感想とかもらえるとうれしいな」
 と、竜児に忍び寄る二つの影。
「なあ高須、俺達は親友だよな?だから、ここはひとつ平等に……」
「高っちゃん、俺、そのクッキーがあれば明日からの期末試験なんとかなりそうな気がするんだけど」
「能登、春田……」 
 うんざりした表情の竜児の目前で、瞬間、手にしていた包みが消え失せる。
「え?」
 見やれば包みは大河の手に。
「ふん」
 大河はつまらなそうに鼻を鳴らすと、包みの中身をざらざらと口の中に流し込む。
「「あーっ!!」」
 悲鳴のような能登と春田の絶叫。
「大河、お前なあ……」
 呆れ顔の竜児の前で、大河はもぐもぐ、ごっくんと。
「竜児の物ほ私の物」
「ちょっとちびとら、何してんのよ!」
 柳眉を逆立てる亜美に向かって、大河は一言。
「まあ悪くはないけど、まだまだね」
「何よ、あんたならもっと上手く作れるっていうの?」
「私じゃないわ……竜児よ」
「はあ?亜美ちゃん意味わかんないんですけど」
「バカチワワは知らなかったかしらね。竜児はお菓子作り上手いの。
 クッキーなんかそこらへんのお店で売ってるのより美味しいんだから」
「だから、それがどうしたってのよ」
「わからない?あんたがショボいクッキーで恥をかく前に優しい私が処分してあげたのよ。感謝することね」
「何が感謝よ。あんたはただ人のクッキーを横取りしただけじゃない」
「人の? あれは竜児にあげたんでしょ。その時点で私の物も同然なんだから、それで文句を言われる筋合いは無いわねえ」
「ああ!」
 亜美が腹黒さを滲ませてニヤリと笑う。
「それもそうよね〜。なんたって『竜児は私のだー!』だもんね〜。
 だから高須君にあげたクッキーも逢坂さんのものだって、そういうことになるわよね〜」
「んぐっ!」
 絶句する大河。うんうんと頷くクラスメイト。
「そ、そんなんじゃないって、言ってるでしょうがーっ!」
「やだもう、 逢坂さんったら照れちゃって。可愛いんだから〜」
「こ、こんのバカチワワ……!」

「おはよう高須」
「おう、おはよう北村」
「いやあ、亜美と逢坂はすっかり仲良くなったな」
「お前、アレを見てどうやったらそんな感想を持てるんだよ……」




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