「もうすっかり秋だよなー」
 レシートと釣り銭を財布にしまいながら竜児が呟く。
「秋よねー」
 籠の荷物をエコバッグに移しながら大河が応える。
 並んでスーパーを出れば、すっかり涼しくなった風が頬を撫でる。
「ねえ竜児、色々買ってたけど今日の晩御飯は何?」
「おう、今日は秋刀魚だ」
「お肉もいいけど、秋はやっぱり秋刀魚よねー」
「鮭は明日の弁当な」
「やった!明日が竜児のお弁当の日でよかったー」
「キノコ類はまあ、色々と使い様はあるしいざとなれば冷凍保存も出来るし」
「おイモは?」
「そうだな、安かったんでつい買っちまったが……天ぷらにするかサツマイモご飯にするか……」
 大河は思案を始めた竜児の袖にぶら下がるように掴まって、
「おやつ!おやつ作って!蒸しパンとかスイートポテトとか!」
「それもいいな。そういや、大河の弟はもう離乳食食べられるんだっけ?茹でて裏漉しして……大河っ!」
 竜児が咄嗟に大河を引き寄せたすぐ脇を、猛スピードの自転車が通り過ぎる。
「まったく、危ねえなあ……」
 振り返りもせず走り去る自転車を凶眼で睨み付ける竜児。
 その腕の中、計らずも抱きしめられる形になった大河は頬を赤らめてドキドキと。
「なあ、大河……」
 耳元で竜児に囁かれ、大河の体がぎゅっと硬直する。
「……少し、太ったんじゃねえか?」
 ピキッと、別の意味で固まる大河。


「う、うそ、やだ、私、そんなに……?」
「落ち着け大河、去年みたいに酷い状態じゃねえから。ただ、さっき手首掴んだ時に、前よりちょっと、さ……」
「そ、そういえば、最近はコンビニの新作スイーツとか、色々と……」
 うろたえまくる大河を前にして竜児は考える。
 去年のようなわけにはいかない。
 竜児にしろ大河にしろ今のクラスメイトは元2−Cのようにノリのいい連中ばかりではないし、なにより受験生であるからしてそうそう協力してもらうわけにはいかない。
 食事も、去年と違って竜児が管理できるのは全体の半分以下だ。
「……運動しか、ねえか」
「え?」
「太ったっていってもまだ大したことねえし、俺も大河と一緒にやるからさ」
「運動……竜児と……二人で……一緒に」
 大河の頬がだんだんと赤くなっていく。
「や、やだもうそんな、私達にはまだ早いっていうか、高校卒業してからって話だったじゃないの。
 で、でもでも、竜児がどうしてもっていうなら、私としては、や、やぶさかではないわ」
 もじもじくねくねとする大河に竜児は呆れ顔で。
「……大河……お前はどんだけエロ虎だよ……」
「……違うの?」
「そこで残念そうな顔をするな。櫛枝式みたいな無茶じゃなくてよ、早朝と夕方にジョギングしようぜ」
「朝……起きられるかな……」
「俺が迎えに行ってやるから。そういや朝公園で太極拳やってる人達が居たから、混ぜてもらってもいいな」
「じゃあその後、竜児の家で朝御飯食べてもいい?」
「おう、そいつは大歓迎だ。カロリーコントロールもし易くなるしな」


「おっはよう大河、高須くん」
「みのりんおはよう!」
「おう、おはよう櫛枝」
「大河、なんだか最近元気だねえ」
「私はいつだって元気だけど?」
「そうじゃなくてさ、なんかこう、キラキラしてるというかつやつやしてるというか……」
「うーん……ここんとこ朝晩と運動してるからかも。始めてからなんか調子いいのよねー」
「おう、そういえば確かに。多少疲れはするけど、それ以上に気持ちいいよな」
「……え?大河と……高須くんも?」
「そうなのみのりん、竜児ったら遅くて……」
「大河が先に行きすぎなんだって」
「二人で一緒に……気持ちいい……運動……朝も夜も……」
 よろりら、と。
 実乃梨は数歩たたらを踏み、顔を隠すように掌を竜児と大河に向ける。
「ふへへ……大人の階段を昇っちまったあんた達は、あっしにはちいっと眩しすぎるぜ……」
「み、みのりん?」
「おい櫛枝……多分それ勘違いだからな」




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