モデルかぁ……チヤホヤされても周りの男達は私の体が欲しいだけなのよね、虚し……
夢を売る商売とはよく言ったものだわ、虚像に群がって私の本質を見極めようなんてヤツは一人も居ない
このまま稼げるだけ稼いで要らなくなったらポイって捨てられるんだろうな。
「……なに1人で語ってんのよ?」
人が気持ちよく自虐世界に陶酔してたのに……
一番厄介なのが現れたわね、鬱になるまで毎日上履きと机の中に生魚でも入れてやろうかしら?

「疲れてんのよ、1人にして貰えるかしら逢坂さん」
「悪かったわね、この妄想狂が!」

「ハイハイ、妄想ばっかりですいませんね。私は読書の途中だから……消えろや!チビ助!!」

「フン!何が読書よカバーなんてしてさ、どうせ人に見せられないエロイのでも読んでるでしょうが」

アラ!ちびトラのクセに鋭いわね。
人間不信の私は創作の世界でしか喜びを味わえないの、それもアブノーマルなやつじゃないとね。
男女の恋愛話しなんて虫唾が走るわ!なんでリアルで失望してるのに二次元までそんなもの見なきゃいけないのよ!

「なに読んでんの!貸しなさいよ!」
「離せ!!アンタが読んでも理解できないしトラウマが一つ増えるだけよ!」
別にコレを見られて困るわけでもない、ましてや恥ずかしくも思わない。
「アンタの為に言ってんのよ!!離しなさい!」
私はモデル川嶋亜美。
周りに保護されぬるま湯の中で学生生活をしてるオマエらとは違う
私は激流の中に身を置いてライバル達を蹴落とし今の地位に君臨したんだから。
たかが自分の性癖を知られたくらいでオマエらボンクラどもに卑屈な態度なんて絶対にとらない。
「見〜せっ……ロッ!!!」
掛け声と共に本は宙を舞い、だらしなくページを開いて逢坂大河の足下で牙を向いた………やっぱ安物の同人は紙ペラペラだなぁ
「……………ごめんなさい」

東郷十三とウラジーミル・プーチンが絡むページを見据えたまま精一杯の謝罪。当然よね、初見にはちょっとハードかな…

「だから言ったでしょ、アンタの為だって」
「…ごめんなさい」
あ〜ぁ、このチビとも少しは仲良くやれると思ったんだけどね、これでまた中途編入のお客さんに逆戻りか…
「別に気にしなくていいわよ、これが私の本質だから」
「待って川嶋さん!」
「なに?」

「今日……帰りに私の家に来ませんか?」


「でも意外だったな、亜美がBL読んでたなんて」
「私の方がビックリよ、大河がこんな大量にBL本持ってるなんて」

魂の契りを結び腐女姉妹になった亜美にさっそく私のコレクションを披露
亜美は劇画タッチな作品が好きみたいだけど私の趣向を理解してくれるかな?
「柔らかい線や淡いカラーページも悪くないわね…」
釣れた!!!食らいつくように細部まで角度を変えて眺めてる!ヤター!!これで私は1人じゃない!

「ねっ!イイでしょ?」
「アリね……新境地だわ」
「本当!!!じゃあね私の宝物見せてあげる!」

「宝物?悪いけど私ショタ系とパソコンで3次をトレースしたエセリアルはダメよ」
「違う!違う!」

ビニールから取り出すと期待通りに驚愕の表情で作品を迎えてくれた。
「これって!大人気サークルみの瓜の処女作『会長は弐度竜を殺ス』じゃない!!!!!」

やっぱり宝物を誉められると快感〜!
「凄いでしょー!」
「凄い!凄い!凄いよ!でもよくこんなプレミア本持ってたわね?」
「徹夜で並んだもん!」

「ヘェ〜大したもんだ……これ何?まだ製本してないみたいだけど」
「そっ!それはダメェ〜!!!!!」
「…………へぇ〜」
見られた!……私の妄想…私の裏日記……ワタシノクロレキシー!!!!!

「上手いじゃない!」
「……そうかなぁ〜」
「これ祐作と高須君でしょ?」
「うん、あの2人の絡みを見てたらゾクゾクするの」

「あぁ〜何となく分かる、高須君はアノ顔で繊細なところがギャップ萌えだし、祐作は無駄に脱ぎたがる露出狂だしねぇ」

「そうなの!本来なら強面の竜児が優等生を攻めるのがデフォなのにあの2人は逆でしょ?それがたまんないの!!!」
あぁ〜思うままに話せる仲間っていいなぁ〜
部屋で1人妄想に明け暮れる日々よサヨナラ〜

「これ完成させようよ!このまま眠らせるには勿体ない作品だわ」

「亜美がそう言ってくれるのは嬉しいけど無理なの、私の妄想力じゃいま書いてるトコで精一杯なんだ」

「私も協力するからさ、がんばろ!」

こうして私達の同人サークル『川坂』は戦国乱世の同人界に歴史的一歩を踏み出した。


「大河、また筆が止まってるわよ」

期待に応えたい!でも私の知識ではもう限界、デジカメを使って2人で絡みのイメージを掴もうとしたけどダメ。
しょせん私達は腐女姉妹……男性の体が分からない!服の脱がし方、筋肉の張り具合、そして男性同士の萌えポイントが!
何に萌え、何にグッとし、何に興奮し、いつ勃起するのか!!!
……何の経験もない私には荷が重い

「少し休憩しよっか、焦っても良作は書けないし」
手際良く準備を整え入れてくれたお茶は湯気と共にリンゴの香りが漂いリラックスできる。
学校では高飛車な態度ばかりが目立つ亜美だけど素顔は気配りもできる家庭的な子だ。
「亜美は何でもできて凄いな、やっぱり仕事場でもモテモテなんでしょ?」

「まぁ言い寄っては来るけどみんな私の体だけが目当てだからね、ウザイだけよ」
「でも仕事の関係で断れなかったりするんでしょ?」

「偶にね、食事くらいは付き合うけど食べ終わったら適当な理由をつけてハイサヨナラって感じよ」
「なんか川嶋亜美って感じだね、男を手玉に取るとゆうか弄んでる?」

やっぱり世間の目は私をそう見てるのか…派手に遊んで男を誘惑してるとか思われてるんだろうな……
恋なんて一生に一度で良いのに……私を見て、私の趣味を理解して、私だけを愛してくれる男。
そんな私だけの一人に出逢って、残りの人生を2人で笑って過ごしたい。

「でも実際は亜美ってガード固いよね、もしかして純愛派?ロマンチスト?好きになったら全て捧げるタイプ?」

「なっ!ナニ言ってのよ!!」
「じゃあ遊びでつき合ったりするの?」

「しないわよ!今まで男に指一本たりとも触れさせたことないし、バリバリの処女よ!」
「やっぱりだ、焦って訳わかんないこと言って亜美はカワイイねぇ〜」

「からかうな!」

「でもね、そこが私たちの弱点だと思うの。何の経験もない2人がアァー!な描写やアニキを想う気持ちを表現するのは無理があるんじゃない?」

「確かにねぇ……只でさえ私たちには難しいのに書いてるのBLだしね」

結局その日の成果はコーナーを攻めるモナリザをもっとリアルに表現するにはスピード感よりコーナリングでうねる感じを全面に押し出した方が良いで合意した。


ダメだ……全く話の展開が思いつかない、やっぱり私には無理なのかな……
「……ごちそうさま」
「どうした、元気ないな?料理が舌に合わなかったか?」
「そっ!そんなことないよ!おいしかった!!」
「……そうか、なら良い」

失敗したな……食事の時くらいは2次元のこと忘れて竜児と会話するべきだった。
日頃はバカにしてるけどお世話になってるわけだし、料理に自信を持ってる竜児の前で黙々と作業みたいな食べ方して悪いことしたな。
なんだか洗い物をする背中も寂しげ。

「今日のご飯もスゴくおいしかったよ、また腕を上げたんじゃない?」

「ありがとな、大河がそう言うなら上がってんのかもな」
「そうだよ!明日も楽しみにしてるから、じゃあね」

「…もう帰るのか?」
「えっ?あぁ…うん。帰ってすることあるから」
「そっか……気をつけてな」

ゆっくりと階段のステップをトン!トン!響かせる度に何故か申し訳ない気分になる……何か元気なかったな

「竜児!久しぶりにゲームしょっか!」
「……ちょっと待っててくれ、風呂入るから」

勢いよく開いた扉の向こうにはパンイチで前屈みに股間を押さえる竜児が居た。


「何で急に戻ってくんだよ、それにノックもしないで」
「だって!竜児が元気なかったから……」

「気持ちは嬉しいけど次からドアをいきなり開けるのは止めてくれ」
「…ハイ」

最近は食事が済むと早々に帰るようになった大河、前はダラダラと何をするわけでも無く部屋に寝転んでいた姿が懐かしい。
この数日で大河が居ない時間がこんなに退屈なんだと思ったのが俺の素直な感想だ。

「最近オマエ何やってんだ?飯食ったらすぐ帰るし」
「秘密、竜児は知らなくていい女の子だけの秘密よ」
「女の子の秘密って……また変な本でも読んでんじゃないだろな?」

「えっ?…ナンノコト?」

「知らないとでも思たのか?誰がオマエの家を掃除してる思ってんだ、クローゼットの中に適当に放り込んでたろうが」

「あっ!アレね、アレかぁ〜!恥ずかしいなー見られちゃったなー」

良かったぁ〜!!!市販のヌルイやつかガチなのはチェストの中に下着と一緒に隠しといて良かった!フゥ〜焦った。

「人の趣味をとやかく言うつもりはないが、もうちょっと普通の恋愛本とかの方が良いと思うぞ」

「アレはアレで面白いのよ!竜児も読んでみる?」
「いや遠慮しとく」

「……やっぱりあんな本を読んでるって知ったらドン引きする?」

「う〜ん… 人それぞれ好みがあるからな俺は気にしない。ホラ、細めを好きな人も居るし
ポッチャリが好きな人も居るだろ?アレと同じじゃないか?」

意外と竜児は可能性があるかもな……読ませてみたら化けるかも…

「流行ってるんだろ?確かボーイズラブとか言う気持ち悪い本が」

ダメか…一瞬で夢をぶっ壊されたわ。

「でも久しぶりだな、こんな風に大河と過ごすのは」
「何?もしかして寂しかった?」
「そんな訳ねぇだろ!!」

「ウリィ!ウリィ!本当のこと言いなさいよ、ご主人様が居なくて寂しかったって」
「チョッ大河!脇腹ハッ!脇腹は止めてくれ!」

空間と呼ぶに等しかった部屋が今日はオレンジ色の暖かい空間に見える、久しぶりに今日は良い夢が見れそうだ。



次回予告

2人の恋が加速する!離れていた時間が2人の距離を縮め始めた。
亜美が願うたった一人の存在、普通はそんな素振りを見せない亜美に変化が……
そして遂にヤツが動き出す!!!



次回『やったね春田!夢の簿記一級合格?!』と『届かない手紙−瀬名へ紡ぐ一枚のLAVE SONG−』をお楽しみに!




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