「・・・・・それ・・・いいクマだね」
「・・・!・・ぉお」
本当に・・・来た。
「やぁ」
「・・・あっ、お、、おぅ」
「・・・ぁ、・・・く、くしえd」
「高須君! ごめん、ちょっと先に言わせて」
「ぇっ」
「あのさ・・・覚えてる?」
櫛枝は、俺から視線をはずすと、空を見上げながら喋りはじめた。
「夏休みに、アーミンの別荘でさ、、夜・・2人で話したよね・・・変なこと」
「UFOが・・どうとか、幽霊がどうとか」
「あ、、あぁ」
俺は、何とも曖昧な相槌を打った。
こんな展開は予想してなかったからだ。
「あのね、高須君」
櫛枝は、帽子を深くかぶり直し───
「UFOも幽霊も、、、、やっぱり私には、見えなくていいと思うんだ」
「・・・見えない方がぁ、いいみたい」
「最近色々考えてね、そう思うようになったんだ」
「わたしは、、、それを高須君に言いたかった」
「だから来たんだ」
帽子と・・それを抑える左腕が邪魔して、櫛枝の表情がわからない。
でも、頬を伝う光が、俺には見えた気がする。
「櫛枝・・」
「言いたいことばっかり言ってごめん」
抑えてた左手を敬礼の形にし───
「櫛枝は、これで帰ります」
言うが否や、櫛枝は踵を返して走り出そうとする。
俺は思わずその右腕を掴んだ、捕まえた。
「!・・・は、はなして、高須君」
後ろ向きなまま、櫛枝が抵抗する。
「ま、待てよ、わけが・・わからねぇよ」
無理やりほどこうと抵抗する櫛枝に俺は―――
「なぁ、どうしたんだよ、俺、、おまえn」
「やめて!」
櫛枝は一際大きな声を出し、強引に半身をひねり、右腕を回す。
!・・・泣い、、てる?
「おねがい、だめなの! 私はここにいちゃいけないの」
なおも暴れる櫛枝に、俺は、力任せに右腕を引っ張った。
「わかんねーよそれじゃあ!それに、何で泣いてるんだよ!」
櫛枝の右手の甲が俺の顔に当たる。
「・・・い、いたい」
「あっ・・」
俺は咄嗟に手を離した、女の子に対して、本気で手首を握り締めてしまった。
「す、、すまん、櫛枝・・・でも、、」
櫛枝は、俺が握り締めていた手首を自分の左手で握りながら、、、俯いている。
俺も、思わずうつむいてしまい、しばしの静寂が訪れた。
不意に、櫛枝が真上を見上げながら声を出した。
「・・・ねぇ、、高須君・・・」
夜空を見上げたまま、静かだけど力強く、櫛枝は喋り続ける。
「高須君のゆうれいは、どこなのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
質問の意図がつかめず、俺は前を見れなかった。
搾り出すような声で、櫛枝は歯を食いしばりながら―――
「・・・あの子、泣いてた」
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの笑顔♪
思わず顔をあげて櫛枝が視界に入る―――
―――と同時に、俺は駆け出していた。
♪君に届けんだ party night♪
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの願い♪
♪君に誓うんだ♪
通り抜けざまに、後から声が聞こえる。
「いけぇーーーーい!たかすぅーーー! Hey!高須!Hi!高須!」
♪Holy Holy Night...♪
いつもの櫛枝の声だった、俺は思わず首をうしろへと―――
「振り返るんじゃねぇぇ高須竜児ぃぃ!・・・それが若さってやつだ・・」
「おぅ!」
俺は顔を正面に向き直し、走り出す、一直線に。
♪今年のクリスマス ちょっと特別さ♪
♪ホワイトクリスマスじゃなくたって♪
坂を転がるように走っていく。
竜児の背が見えなくなって、みのりは、突き出した右手を・・・
下ろさずに、自分の唇にそっと重ねた。
♪星屑のイルミネーション ほら降り積もるよ♪
聖夜に竜が街を翔ける。
ぬいぐるみのせいで走り辛いのは確かだった。
でも、そんなことはもう関係なかった。
♪キラキラ輝いて みんなが幸せで♪
♪チカチカ瞬いて みんなが夢を見て♪
(「・・・あの子、泣いてた」)
頭の中はもぅ、あいつの泣き顔で一杯だった。
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの笑顔♪
♪君に届けんだ party night♪
傾いた電柱を左に曲がる。
俺は馬鹿だ、、あいつはいつだってそうだったじゃないか。
いつも一人で、小さくなって、我慢して、、、、
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの願い♪
見慣れたアパートが近づいてくる。
明かりの灯されていない、冷たい建物も見えてくる。
♪君に誓うんだ Holy Holy Night...♪
マンションの自動ドアを開け、階段を駆け上った。
見えてくる見慣れた立派なドア。
♪今年のクリスマス きっと特別さ♪
ドアに駆け寄り、ドアノブをまわすと・・・開いてる。
♪Lonely Christmas じゃつまらない♪
「タイガー!」
玄関ドアを開け放ち、俺は叫んだ。
♪笑顔はイルミネーション ほら飾ってあげる♪
反応が無い、が、ロビーに微かな明りが見える。
靴を脱ぎ捨て、ロビーのドアを―――
♪ゆらゆら揺らめいて みんなで手をつなぎ♪
「たいがぁ!」
―――開け放った。
♪ピカピカ煌いて みんなで星見上げ♪
大きな殺風景の部屋の、窓の近くで、月明かりに照らされながら・・・
その大きな目は、腫れぼったくれて、でも、すぐに自分の名を呼ぶものを確認し、
「・・・りゅ・・・ぅ・・・・じ?・・・・・」
信じられないという目から、
「大河!」
膝が笑いよろけながらも、俺は一歩づつ、一歩づつ、
「りゅう・・・じ・・・ぅぞ、だって・・・」
もぅ枯れ果てたと思えたその瞳から、
「たいが!」
大きく手を広げ、俺は幾度目かの名前を、
叫ぶと同時に、あいつは弾けるように、
「りゅうじいいいぃぃぃぃぃぃぁぁぁあ!」
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの笑顔♪
大河が、胸に飛び込んできた。
♪君に届けんだ party night♪
「りゅぅじ、りゅうじ・・・・・りゅうじぃーーー」
胸に顔を埋めながら、泣きじゃくる大河。
「りゅじ、ぅうあああぁぁぁぁ」
その小さな身体で、一生懸命に包み込もうと、両手を目一杯伸ばし、
俺は、抱かかえる様に強く、強く抱きしめ、
♪さぁ、クリスマス!いっぱいの願い♪
「たいが! いる、俺はここにいるぞ」
止まらない鳴声、その小さな背中が何度も何度もしゃくりあがる。
「りゅうじぃぃ・・・ぃぃあぁぁぁああああぁ」
「悪かった! もう、、ずっと、、、ずっと傍にいる! いつだって!」
「・・・りゅうじぃ・・・」
声かすれた泣声、不意に顔を上げ、
「たいが・・・」
そのまなこはもう、紅いとしか表現できず、
♪君に誓うんだ♪
その鮮やかな紅をまぶたが隠し、
かかとが地上を嫌ったとき、
月明かりの中、、、二つの影が重なった。
♪Holy Holy Night...♪
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