コン、コン。
「大河ー」
ノックをしても声をかけても反応が無い。
「まだ寝てやがるな……まったく、夏休みだからってだらけやがって」
ドアを開ければ案の定、大きなベッドの真ん中で丸くなっている大河の姿が。
「おい、大……」
近づいて声をかけようとした竜児の動きが止まる。
大河が、膝を抱えるようにぎゅっと、体を小さく丸めていたから。
眉根に深く皺を寄せ、目尻にうっすら涙を浮かべていたから。
寝息に混じって、時折苦しげなうめきを漏らしていたから。
竜児は一つ溜息をつくと大河の傍に腰掛け、栗色の髪に包まれた頭から背中にそっと掌を滑らせる。
小学生の時、酷く熱を出してうなされたことがある。
訳も無く周りの全てがとてつもなく怖く感じて、布団の中で泣きながらひたすらに小さくなっていた。 ……ちょうど、今の大河のように。
そんな時、泰子が優しく背中を撫でてくれたのだ。
「大丈夫だよ、竜ちゃん。やっちゃんがついてるから、もうな〜んにも怖くないよ」
そう囁きながら、何度も何度も。
不思議と、それだけで随分と楽になったのを憶えている。
だから、竜児も大河の背を撫でる。
「大丈夫だ、大河。怖くなんかねえぞ。俺が傍に居るからよ。
虎の傍にはいつだって竜が居るんだ。だから、安心していいんだ……」
無論竜児とて、未来永劫大河の横に居るつもりは無い。
竜児の人生設計では、いずれ櫛枝実乃梨に告白して、恋人になって、出来れば結婚して添い遂げたいと思っている。
まあ、あくまで予定は未定であって決定ではないのだけれど。
それは大河も同じことで、北村と恋人になれるようにと日々努力している。
だけど、それはあるかもしれない未来の姿であって。
今現在大河の傍に居られるのは竜児だけだから。
竜児は、繰り返し、繰り返し、大河の背を撫でる。
大河に泣いていて欲しくはないから。笑顔でいて欲しいから。
だから、大河の背を撫で続ける。ゆっくりと、優しく。
その寝顔が緩むまで。苦しそうな声が聞こえなくなるまで。何度も、何度でも。
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