「ごちそうさま」
「……大河、なんか悩みでもあるのか?」
「なによ急に。別に何もないわよ」
「いーや、お前がおかわりしねえのは絶対に何かある時だ」
「あんたが私をどう認識しているのか、一度じっくり話し合う必要がありそうね……」
「で、どうしたんだよ?話してみろって」
「……あのね、北村君へのアプローチが悉く上手くいかないのは、事前のシミュレーションが足りないせいだと思ったのよ」
「そうか?大河が痛い目を見る原因の八割ぐらいは、お前のドジだと思うが……」
 ごすっ!
「思ったのよ」
「いってえ……」
「でね、色々と考えてるうちに気づいたんだけど……私、北村君との夫婦生活ってものが想像出来ないのよ」
「ふ、夫婦……」
「妙な想像してるんじゃないでしょうねこのエロ犬」
「い、いや、そんなことはねえぞ」
「何て言うかね、自分の内部に『普通の夫婦の姿』ってモノが無いのよ……そんなもの、見たことが無いから」
「……おう……」
「だからね、北村君と恋人になって、結婚しても……その、ちゃんとやっていけるのかなって……」
「そもそもそこに考えが及ぶのが飛躍のしすぎだとは思うが……まあ、やっていけねえなんてことはねえだろ。
 知らないから、経験が無いから上手くいかねえなんて言ったら、世の中の殆どは失敗だらけになっちまうじゃねえか」
「それは、そうだけど……」
「どうしても不安だっていうならさ、一緒に考えようぜ」
「え?」
「『普通の夫婦の姿』を見たことが無いっていうなら俺だって同じだけどさ、二人で考えながら想像すれば、なんかわかるんじゃねえか?」
「そう、かな……うん、やってみようかしら」
「えっと、夫婦ってことはいわゆる新婚の時期はもう過ぎてるんだよな……それなら、一々ドキドキとかはしてられねえよな」
「一緒にいるのが普通になってるってことよね」
「そうだな。それなら変に遠慮とかしないで、言いたい事もポンポン言ってるんじゃねえか?」
「それだとケンカにならない?」
「そういう事もあるかもしれけど、ほら、夫婦喧嘩は犬も食わないとか言うじゃねえか。
 きっと傍から見てるほど深刻じゃねえ……というか、コミュニケーションの一環なんじゃねえかな」
「他にはなにかあるかしら?」
「うーん……それほど特別なことが無いってのが『普通』ってことだからなあ……あたりまえの自分でいられるってことじゃねえかな……」
「つまり、一緒にいて、遠慮とかしないで、普通にしてて……あれ?
 それって……それってなんか……竜児と……」
「おう、どうした?」
「なな、何でもないわ!」




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