「ねえ、名前で呼んでもいいかな?」
 微かに頬を赤らめながら、彼女はそんなことを言うのだ。
「お、おう?」
「……ダメ?」
「いや、ダメじゃねえよ。そうだよな、こ、恋人なら、そのぐらい普通だよな」
「よかった……それじゃ……竜児」
「おう」
「竜児♪」
「おう!」
 嗚呼、名前で呼ばれるという只それだけの事が、何故こんなにも幸せなのか。
「な、なあ、俺も、その……名前で、呼んでいいか?」
「もちのロン、リーチ一発裏三つだぜ!」
「お、おう……それじゃ……み、みの――」

 どすんっ!
「ぐぇっ!」
 突然の衝撃で目が覚める。
「何轢かれたカエルみたいな声出してるのよ」
「……誰のせいだよ」
 竜児を起こすべくボディプレスをかましてくれたのは、言うまでも無く逢坂大河。
「あんたがいくら呼んでも起きないのが悪いんじゃない」
 その姿はなぜかパジャマを着たままで。
「起きないって……おう、まだ2時じゃねえか! まったく、人がせっかくいい夢見てたってのに……」
「あら、それはちょうどよかったわ」
「……何がだよ」
「どうせみのりんのエロエロな夢でも見てたんでしょこのエロ犬。夢とはいえ親友を穢させるわけにはいかないもの」
「み、見てねえよ!穢さねえよ!」
「はん、どうだかね」
「それより何の用だよこんな時間に!」
「そうそう、北村君攻略のいい方法を思いついたのよ!まずハート型の座布団を用意して……あれ?それからどうするんだっけ?」
「おい」
「おっかしいわねー、夢ではばっちり上手く行ってたんだけど」
「……帰れよ。送ってってやるから」

「ふわ〜ぁ……」
 再びベッドに潜り込んであくびを一つ。
「さて、もう少し寝るか……」
 願わくば、さっきの夢の続きを見られればいいのだけれど。

「竜児」
「おう」
「竜児!」
「おう!」
 嗚呼、名前で呼ばれるという只それだけの事が、何故こんなにも幸せなのか。
「な、なあ、俺も、その……名前で、呼んでいいか?」
「今更何言ってるのよ。傍らに居続けるからって言ったのは竜児じゃないの」
「た、大河!?」
 そう、何時の間にか目の前に居るのは逢坂大河。その右手に木刀を携え、左手に持つ鎖は竜児の首輪に繋がって。
「さあ、あんたはこれからずっと私のためにチャーハンを作り続けるのよ!」

 薄ぼんやりとした朝の光の中、目を覚ました竜児はただただ呆然と。
「……何でこうなるんだ?」




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