「はあ……」
 卓袱台の前で深々と溜息をつく竜児。
「竜児、どうしたのよ、さっきから落ち込んじゃって。ただでさえ凶悪な顔がどこかのストーカーみたいになってるわよ?」
「いや、ちょっと夢見が悪くてな……」
「……どんな夢?」
「……なんというか、昔の記憶をほぼ忠実に再現した夢でさ」
「昔って?」
「小学の……二年だったか三年だったか、作文を書く授業があってさ……テーマが『ぼくの・わたしの家族』で」
「……で?」
「で、正直に書いちまったわけだよ。『うちにはお父さんがいません。お母さんは夜にお酒を飲む仕事をしています』って。
 もちろん書いたのはそれだけじゃないんだけど、やっぱりその辺が印象に残っちまったんだろうな」
「……イジメとか?」
「いや、そこまで酷くはなかったけどさ。元々目付きのせいで引かれがちだったのが、一層人が寄らなくなったのは確かだな」
「……竜児……ちょっとそこに座りなさい」
「いや、座ってるだろ、さっきからずっと」
「いいから黙って」
 大河は竜児の傍に立つと、その頭をそっと抱き締める。
「た、大河!?」
 そしてそのまま――流れるようにヘッドロックに移行。
「あだだだだだだだ!」
「あ・ん・た・は・そんな昔の事でいつまでもグジグジしてるんじゃないわよ!このグズ犬!いやグジ犬!」
 ぎりぎりぎりぎり。
「大河!ギブ!ギブだって!」
 竜児の必死のタップにようやく腕を離す大河。
「あー……いってえ……。
 まあ、確かにこんなことで家族に心配かけるもんじゃねえよな」
「まったく、わかったならやっちゃんが起きてくる前にそのしょぼくれた顔を治しなさいよ」
「おう、すまなかったな、大河」
 言いながら竜児はポン、と大河の頭に手を。
「だから、私じゃなくてやっちゃんに……」
「いや、だからさ……心配かけたのは大河にだろ」
「え?」
「お前もさ、もう家族……みたいなもんじゃねえか。泰子だって『うちは三人家族』とか言ってたしな」
「ふぇ?……え、あ……うん」
「だから、心配させてすまねえって」
「わ、わかればいいのよ」
「そうだな、お詫びに今日の晩飯はトンカツにするか……って大河、どうしたんだよ?」
「な、何が?」
「えらくニヤけちまって……そんなにトンカツが食べたかったのか?」
「そそ、そーなの!丁度食べたいなーって思ってて!」




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