季節は随分と寒い時期まで来た。
少し前に学校では生徒会選挙があり、北村は無事、というか順当に会長へと就任した。

その時の北村が嬉しそうではあるものの少し寂しそうで、本当に見て貰いたい人が今はここにはいないんだと思わされた。
俺は学園祭の後、北村が狩野すみれ会長……いや、前会長を好きだった事を北村の口から聞いた。
それは何というか衝撃的な言葉だったが、その時は自分のことで一杯一杯で深く考える事が出来なかった。
だが、この選挙の時にそれがどういう事なのかハッキリと理解した。
北村が好きになった女性はもう日本にはいないのだ。
そして北村はいなくなられて尚、前会長を好きでいる。
それが指し示す事柄はたった一つ。

「北村は前会長がまだ好きって事は大河の思いは……」

……報われない。
現段階ではという枕言葉がつくが、それでも大河が北村に受け入れてもらえる可能性は少ないということになる。

「……はぁ」

冷たくなった手に息なのか溜息なのかわからない吐息を吹きかける。
今日は久しぶりに一人での帰宅。
大河は用事があるとか言って一人で何処かに行った。

「俺、どうしたらいいんだろう」

学園祭以来、俺はどことなく大河を避けていた。
そんな俺の態度に気付いているのかいないのか、大河も何処かよそよそしい。
けど、学際の終わった晩に、

『アンタ、傍にいるって言っておいて今まで何処に行ってたのよ!!』

と言ってくれたのは嬉しかった。
だからこんなことじゃいけないと思いつつ、学際の時の自分自身を許せなくて、ずるずると時は過ぎ、気付けば町はたくさんの色鮮やかなイルミネーション飾り付けるくらいの時期になっていた。
二年前、大河と初めて会った時期がもうすぐやってくる。



***


『以上、恋のお悩み相談失恋大明神からでした』

最近日常と化していた北村の恋の相談コーナー。
会長に答えをもらえずにアメリカへ行かれてしまった北村が、自身を少し皮肉って作ったコーナー……らしい。
そんなコーナーが今日も無事に終えた時、普段とは違い放送が続いた。

『生徒会からのお知らせ、もうすぐクリスマスですね。皆さんの予定は決まっていますか?生徒会ではクリスマスパーティーを企画中です』

途端にクラスがざわつく。
クリスマスパーティー。
今年最後の学校行事となるかもしれない。

『有志を募って準備を行い、自由参加のイベントを考えています。興味のある方は生徒会の者に気軽に声をかけてください』

クラスの奴等がざわつく。
参加者は多そうだ。



***



「ねぇ竜児」
「……ん?」

私は帰宅途中、久しぶりに竜児に話しかけた。
ここ最近はめっきり会話も減っていたけど、ここはがんばらねばいけない。

「アンタ、クリスマスパーティーに参加しなさいよ、そんでアンタの好きな子に告白しちゃいなさい」
「……は?」

何を急に言い出すのかと思えば、といような顔で竜児は素っ頓狂な声を出す。

「これがラストチャンスかもしれないわよ?来年は忙しいだろうし、あ、何だったら手伝ったげる」
「……いや、俺は……」

竜児は案の定どもる。予想の範囲ではあったが、だからといって引く気は無い。
覚悟を決めて今まで踏み込まないようにしてきたその“場所”に踏み込む。
だって、これは必要な事だから。
もしも竜児が好きな人と上手くいけばきっと私も諦められる。
でも振られたら私にもチャンスが来る。
だから多少強引でもここは引けない。

「グダグダ言わない!!いい?私はクリスマスって大好きなの。良い子でいなきゃならないの。だからアンタの恋を応援してあげる」
「……よくわからんが、何で良い子でいなきゃならないんだ?それと俺の恋とどう関係するんだ?」
「わからない?良い子の所にはサンタさんが来るのよ?」
「……お、お前まさか」

竜児が可哀想な者を見るような目で私を見てくる。
流石にちょっとカチンと来る。

「ちょっと!!わかってるわよそれくらい!!でも小さい頃にサンタさんに私は会ったの!!夢かもしれないし親かもしれない。それでも私は嬉しかったの!!」
「そ、そうか」
「そうよ、その時サンタさんは私が良い子にしてたらまた来るよって言ってくれたのよ。だから私はクリスマス限定で良い子になるの」
「……まぁそれはそれで大河の自由だが、それと俺の恋の応援とのつながりがわからん」

「バッカねぇ、私はクリスマス限定の良い子よ?天使のようにどんな人にも等しく手を差し伸べるわ。そう、今の私はエンジェル大河!!エンジェル大河の前に人は平等なのよ!!」
「……エンジェル大河の前に人は平等、か」

竜児は少し感慨深げに言葉を反芻する。もう一押しだと思う。

「エンジェルと言えば弓、弓と言えばキューピットじゃない、ほらほら、どーんと大船に乗ったつもりでいなさい!!」
「月並みだが泥船で無いことを祈るな」
「何よいちいち難癖つけてくるわね、で、やる気は?」
「いや、俺は……」

竜児は一瞬顔を伏せる。
マシンガントークで気を紛らわせていたが、内心はパニックだった。
慣れないことはするもんじゃない。
竜児、呆れてないだろうか、今ので私を軽蔑していないだろうか。
そのうち竜児は顔を上げて、

「俺は……告白しない」
「……へ?何でよ?今なら全面バックアップありなのよ?」

それでは困るのだ。

「いや、俺は今の自分の恋を諦めようかと思ってるんだ」
「……なんですと?」
「俺は、今の恋を……諦めようと思う。いろいろ考えて、俺じゃダメかなって」

なんてこと……予想外の展開だ。
しかし、これはおあつらえ向きではないか。
早速エンジェル大河になった分のお返しが天から送られたのかもしれない。
だって竜児が恋を諦めるって事は、今はフリーってことじゃない!!

「そ、そう。だったら尚更パーティーには出ないとね」
「ん?何でだ?」
「アンタ、クリスマスに男一人で寂しく家で過ごす気?根暗にも程があるわ。今年最後に楽しみなさいよ」

そうだ、それでそのパーティーで、私に告白させて欲しい。
家だったらやっちゃんに聞かれちゃう恐れがある。
別に嫌じゃないけど、ちょっと気まずい。
何とかパーティーで二人きりになって……いや、最悪帰りの時でも良い。

「……そうだな、“最後”にいいかもしれねぇな」
「やった!!決まりだからね!!」

私は、喜びの余り飛び跳ね、クリスマスに思いを馳せた。



***



次の日からクリスマスパーティーの準備が始まった。
毎日放課後に残って準備、ツリーはばかちーが仕事場で見た大きな木を借りられる事になった。
飾り付けやイベント、話し合い等準備することは多かった。
それでもクリスマス当日を思うとドキドキして楽しかった。
どうなるだろう?断られるだろうか?それとも驚きながらも受け入れてくれるだろうか?
そう思うたびに一喜一憂して毎日を過ごした。

「あのね竜児、クリスマスはこーんなでっかいローストチキンを食べよう!!」
「お前な、インコちゃんに恨まれるぞ」
「それとねそれとね、クリスマスって言ったら手羽先かしら?」
「お前の口からは肉以外に出てこないのか、あと鶏肉はダメだって」
「えーとえーと、じゃあこーんなでっかいケーキ!!イチゴを一杯ラッピングして……」

「まったく、それを作るのにどれだけ大変だと……今の時期イチゴは高いんだぞ?」

竜児は私のはしゃいだ言葉に一つ一つ律儀に返してくれる。
クリスマスはもう、目前だった。

「うう、さぶっ!!」

帰宅途中は特に風が冷たい。
日が落ちるのも随分と早くなった。
竜児も寒そうに赤いカシミヤの長いマフラーをして……?

「……アレ?そのマフラー何か見覚えがあるような」
「……!!……そ、そうか?」
「う〜ん、何処だっけ?いや、いつだっけ?」

どうにもこの構図、“竜児が赤いマフラーをして手をポケットにいれていない姿”に見覚えがある気がする。

「……う〜ん思い出せない。まぁいいや、ちょっとそれ貸して」
「お、おい?」

私は竜児の首に巻かれてる赤いマフラーをひったくると自身の首に巻き付ける。
スーっと冷たい空気が遮られ、少し竜児の匂いがした。

「お前、クリスマスまでは良い子でいるんじゃなかったのか?」
「んー?良い子でいるよー?」
「人からマフラーを奪うのは良い子のすることなのか?」
「奪ってないもん、借りただけだもん」

私が得意気にそう言うと、竜児は溜息を吐いて諦めたように制服の襟を立てた。

「竜児、まるでヤンキーみたい」
「誰がヤンキーだ」
「そう見えるってだけの話」
「誰のせいだ誰の」

竜児は呆れつつも私にマフラーを返せとは言わなかった。
その優しさが嬉しかった。



***



「じゃあいい?タイガー、もう一回最初からやるよ?」
「はいよっと」

曲に合わせてばかちーと踊る。
歌詞は覚えたし、歌は多分大丈夫。
これはサプライズ。
私とばかちーでの突然のライブ。
きっとみんな、竜児も驚く。

「……っと!!」
「なかなか様になってきたわね」
「でもバレないように練習してるから結構厳しいよ」

踊るのは私とばかちー、そしてクラスメイトの香椎奈々子。
同じ衣装を着て三人で歌って踊るつもり。
竜児の驚く顔が楽しみだ。



***



「えっとこれとこれと……ああくそ、何でこんなに冬は物がたけーんだ」

俺は一人で買い物をしていた。
最近時々大河は何処かに行く。
まぁ何かパーティーの準備に借り出されてるのだろう。
俺も何度かそんなことがあって一人で行ったりするし。
それに今日はそのほうが都合が良い。
俺の中でこれで“最後”にするために、今日はその準備をする日なのだから。
大河はきっと驚くだろう。
喜んでもくれるだろう。
それを見て、俺はこの気持ちを封印するともう決めたんだ。



***



クリスマス当日。
いよいよやってきた当日。

「竜児、準備出来た?」
「おう」

私は黒いドレス。
竜児には私が持っていた黒いスーツを上げた。
それ父親の、と言ったら嫌がっていたが、着ないなら捨てると言ったら渋々MOTTAINAIと言って受け取ってくれた。
まぁ●万円はする代物だし、持ち主がまだ一回も着ていなかったからほとんど誰のものでもないいいスーツなんだけど。
そのスーツを着た竜児はカッコ良いけどどこからどうみてもアッチ系の人で。

「いやぁん、パパにそっくりぃ♪」

というやっちゃんの言葉に結構ショックを受けていたのは笑った。
準備を終えた私は、借りたままの赤いカシミヤのマフラーをして竜児と二人で歩いて学校まで行く。
会場の体育館は既に賑わっていた。
ばかちーが用意してくれた大きな木にみんなで飾り付けしたツリーが中央にあって、辺りにはテーブルとこれまたばかちーが手配したフルーツポンチ。
なんでもこれはサンプルで、感想を書けばタダでいいとのこと。
ばかちーもやるわねぇと思いつつフルーツポンチを配っている竜児に目が……は?

「あ、ああああんた何やってんのよ?いつの間に!?」

つい先程まで隣にいた竜児が、気付けばその三白眼をつり上げてオタマ片手にフルーツポンチを容器に入れている。

「お、おう。これやってた奴が要領悪そうだったんでつい」
「つい、じゃないわよ、どこまで几帳面なのよアンタ」
「い、いや、そのなんていうか……悪い……あ、そこのお前、歩きながら食べるな、零れるだろ!!」

謝りつつ周りに目を向ける竜児に苦笑する。
こいつは、クリスマスになっても変わらない。
っとと、そろそろ時間だ。
私は隙を見て竜児の目を盗み、場を離れる。
場所はステージ裏。

「タイガー、奈々子ちゃん、準備は良い?」
「ええ」
「大丈夫よ」

私たちは微笑み会い、体育館の照明を落とした。



***



辺りが急に暗くなる。
何だ?と思うとカーテンがかかっていたステージが開いていき、中からは香椎と川嶋と……大河が出てきた。
音楽に合わせて踊り、三人は歌っている。
あいつが時々いなくなっていたのはこの為だったのか。
大河が俺を見て……ウインクをした。
いや、正確には俺じゃないかもしれない。
周りの男子がそれに反応して騒いでいるし。

「今のタイガー見た?超可愛いくね?」
「今のって俺にやったのかな?」
「バーカ、んなわけあるか、サービスだろ」
「あー亜美ちゃんも可愛い〜♪」
「香椎って結構美人だよな」

女子の話題で男子は盛り上がり、これでもかというくらいに熱くなっている。
さて、俺の方も少し席を外さなければ。



***



「上手くいったね」

私たちはステージでのライブが上手く行ったことに満足していた。
みんなに大盛況だったし、竜児ウインク気付いたかな?
そう思いながら私たちが会場に戻ると、今度は私たちが驚かされた。
先程まではテーブルにあったのはサンプルのフルーツポンチのみ。
ところがどうだ?
今はテーブルにぎっしりと料理が乗っているではないか。

「何これ?ちょっと祐作!!どういうこと?私にお金使うなっていっておいて自分は何をしたわけ?」
「お、落ち着け亜美、いや実は俺も驚いている。まさかここまでとは」

テーブルには、大きなローストチキンがとその周りを手羽先で囲ってある皿が一杯あった。
他にも簡単なポテトサラダ等があるが、驚いたのが大きいケーキ。
恐らくスポンジを三段重ねにして大きくしているのだろう。
これでもかというくらいにイチゴがついていて、それはとても見栄えのいいものだった。

けど何か、どれも見覚えのあるメニュー。


「実は高須に相談したら俺が作るって言ってくれてな。俺や生徒会の面々も手伝ったんだが、ここまで凄い料理になるとは思っていなかった」

何でも学際での収入は学校費として預かりになり、行事の予算に回したりするらしい。

今回は、学際の収益が多く、このイベントにもお金が僅かに使えたということなのだそうだ。

「竜児……」

あの日に言った私の希望を、竜児はきちんと聞き届けていたんだ。
無理のようなことを言いつつ、結局は願いをかなえてくれる竜児……あれ?

「ねぇ北村君、竜児は?」
「ああ、あいつなら帰ったよ、何でも泰子さんと約束があるからって」
「……え?」

ナニソレ?
私聞いていない。
それにやっちゃんは今日は仕事のはずだ。
行きがけにも、

『二人ともあんまり遅くならない程度に一杯楽しんでくるんだよぉ』

って言ってたし。
……どういうこと?
胸騒ぎがする。
私は会場を飛び出した。



***



俺は寒空の中を歩いていた。
結局俺は大河が俺の作った料理を見る前に出てきた。
やっぱり、大河の顔を見たら未練が残りそうだから。

「……さむ」

首元がスースーする。
そういや大河にマフラー取られたままだった。
大河、料理喜んで食ってるだろうか。
まぁあいつ肉好きだし大丈夫だろう。
俺はそのまま帰ろうとして、足を止め、本当に何気なくとある場所へと足を向けた。



***



竜児がいない。
走っても走っても見あたらない。
家に帰ったならこの道を使う筈なんだけど。
おかしい。何かおかしい。
私は嫌な予感に駆られながら足を急がせる。



***



「変わってないな、ここは」

寒い冬空の下、俺はかつての幼稚園前に来ていた。
今年も、やっぱりボランティアはやっているようだ。
けど、案の定俺には誰も来ない。
先程一人近づいてきたが、ぎょっとして逃げられた。
ここから俺の恋は始まった。
だから同じ日にここで終わりにしようと思う。
今年は……いや、今年もだれも俺には配りに来ない。
大河のような子は今年はいないらしい。
当然だ、そう何人も彼女みたいのがいてたまるか。

「……冷えてきたな」

体が冷える。どうやら俺はまたポケットに手を入れていなかったらしい。
今日はこの手を暖めてくれる子はいない。
寒い空の下、雪がちらつき始めていた。



***



「はぁ……はぁ……」

結局竜児の家まで来てしまった。
竜児には今だ会えない。
帰っているのかと思ったが家の電気はついていないし、鍵もかかってる。

「まさかもう寝た、とか?」

言ってからそんなわけは無いと自分に突っ込む。
それでも念のためと私は渡されてた合い鍵で家に入る。
中は……やっぱり暗いし寒い。
人がいるなら暖房を入れてるはずだが入っていないようだ。

「竜児、いるの?」

私は恐る恐る声をかけながら高須家を迷走するが、何処にもいない。

「竜児、入るよ?」

竜児の部屋にも入ってみるが、帰ってきた形跡すら無い。
どうなっているのだろう。竜児は何処に行ったのだろう。
念の為ケータイでばかちーに聞くが、やっぱり竜児は会場にもいない。
出て行ったのは間違い無いようだ。


だがそれなら一体何処に行ったのだろうか。
私は竜児の部屋を見渡す。
相変わらず整頓されている部屋。
竜児の匂いの籠もった部屋。
ふと、机の横の本棚、一番下にあるダンボール箱に見覚えがあった。

「これは……」

最初に夜襲かけた時に持ってきたダンボール。
そういえばこの中には……。
電気を点けてダンボールを漁る。
この中に、一つだけ見たいものがある。

「……あった」

それは一冊のノート。
確か好きになった人の為に考えた詩が書いてるノート、だったかしら。
竜児はこれだけはダメと言って見せてくれなかった。
きっとこの中には竜児が今まで恋いこがれた人の事が書かれているのだろう。
どうしようかと迷い、私は結局それを開いた。
今の竜児の手がかりは何も無い。
もしかしたら気が変わってココに書かれている人に告白しに行ったのかもしれない。
竜児には電話しづらいし、そう思うと手が止まらなかった。
そうして開いた最初のページに書かれていた人物は……。

「何、これ……」

私が想像していないものだった。



─────逢坂大河嬢に捧ぐ─────



「う、嘘……」

まさか書いてあるのが自分の名前だとは思わなかった。
この時ようやく竜児があの時見せたくないと言った意味を理解した。
途端込み上げてくるのは嬉しさ……よりも罪悪感。
私は竜児に何度恋の応援をお願いした?
なんて残酷だったんだろう。
今ならわかる。
旅行の時に『断る』と言った意味が。
私は……最低だ
私を好きな竜児に、私を好きだった竜児に今まで何て酷いこと……“だった”?
今自分で思った事に戦慄し、恐怖する。
彼は何て言っていた?

『いや、俺は今の自分の恋を諦めようかと思ってるんだ』

そうだ、竜児は諦めると言った。
つまりあの時、竜児は私を諦めると言ったんだ。

「そ、そんな……」

その場にへたり込む。
首から借りていた竜児のマフラーがぼとりと落ちた。


そのマフラーを見て、唐突に二年前の今日を思い出す。
その日、私は竜児と会っているではないか。
まさか、竜児はその時からずっと……?
ノートを見る限り、そうなのかもしれない。
だからなのだろう。
散々竜児を傷つけた私は、竜児に見切りをつけられたんだ。
私が竜児の事を好きになって、ううん、好きな事に気付いた時にはもう、竜児は私を好きじゃなくなっていた。

「……いやだよぅ」

こうなってはきっと、竜児はもう私を好きにならないだろう。

「……そんなのいやだよぅ」

そしてそれは自分のせい。

「……何が平等よ」

全然平等なんかじゃ、対等なんかじゃ無かった。

「……竜児がいいのに」

私は、ようやく見つけた、気付いた一番欲しい物を、手に入れることが……出来ない。


「……竜児が好き、なのに」

視界が霞み、ボタボタと竜児の部屋の畳みを濡らしていく。

「……せっかく気付いたのに」

もう、私の求めたものは、手からこぼれ落ちてしまったのだ。

「……竜児しかいない、のに」

赤いカシミヤのマフラーから、部屋から、そこら中から竜児を感じつつ、ここにはいないというのが現状で。






「りゅうじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」






泣き叫ぶその声は、雪降るクリスマスの夜に解け、今は部屋の主に届くことは無い。



***



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