「あれ〜?竜ちゃん今からお出かけ〜?」
「おう、学校に忘れ物しちまってな。メシは冷蔵庫に入れてあるから、遅くなるようだったら暖めて先に食べててくれ」
 嘘であった。
 そもそも今忘れ物に気づいたのであれば、あらかじめ食事の用意をしてあるはずが無い。
 それでは何の為に出かけるのかというと……


 大橋高校の校門……の近くの物影。
 高須竜児と逢坂大河はそこに身を潜めていた。
「……まだかしら……」
「焦るなって、逢坂。授業終った直後の北村は部活や生徒会で忙しいけど、それが終ってからなら何も問題はねえんだから」
「でも、やっぱりこんな時間に偶然逢うなんて不自然じゃない?」
「そこは課題が終らなかったとか忘れ物取りに来たとかいうことにすればいいじゃねえか」
「そ、そうよね……」
「ほら、言ってるそばから北村が来たぞ。行ってこい、逢坂」
 軽く背を押すと、逢坂は数歩たたらを踏みながら前に出て。
「き、北む――」
 ぐうぅぅぅ〜〜るるる
 鳴り響いた腹の音は、逢坂の動きを止めるのに十分だった。

「……笑えばいいじゃないの」
「……笑わねえよ」
「何でこう、いつもいつも……上手くいかないんだろ……」
「まあ、今回のは不可抗力だろ」
「でも……やっぱり私なんかじゃ……ダメなのかな……」
 肩を落とし、とぼとぼと歩く逢坂は今にも泣き出しそうな表情で。
「……なあ逢坂、今日の晩飯はウチで食わねえか?」
「……何よ急に」
「腹減ってるんだろ?うちならもうメシの準備出来てるし、足りなきゃすぐに作れるしな」
「でも、お母さんとか、いいの?」
「……まあ、うちのおふくろはあんまり細かい事気にしねえからさ」
「……細かい事って……」
「どっちかというと、逢坂が泰子を見て引かねえかの方が心配だ」
「泰子って……なに、ひょっとしてあんた自分の母親のこと名前で呼んでるわけ?」
「おう、なんというか……ちょっと変わった親でな」
「そう言われるとなんか興味が湧くわね……メニューは何?」
「今日のメインはチンジャオロースだ。三人だとご飯が少し足りねえかな……冷凍してあるのを解凍するか、チャーハンにして嵩増しするか……」
「チャーハン!チャーハン食べたい!」
「よし、決まりだ。そうだ、逢坂がよかったらだけど、これからメシはうちで食うことにしねえか?
 前から思ってたんだよ。逢坂は晩飯8時だけどうちは6時半だから、二回作るのが面倒でさ。朝だって纏めて作って一緒に食べた方が効率いいし」
「そうねえ……竜児がどうしてもって言うならまあ、やぶさかではないわ」
「おう、頼む」
「それじゃ、さっさと帰ってご飯にしましょう。その後、明日の作戦を考えるのよ!」
「おう、そうだな。次はきっと上手くいくさ」





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