宵闇の迫る大橋高校の校門前で、部活帰りの生徒が息を呑んで足を竦ませる。
 なぜならば、そこに一人の男が立っていたから。
 ギラギラと凶眼を輝かせて。
 不穏なる気配を漂わせて。
 それは犯罪組織のエージェントか。はたまた誰彼時の魔物か。
「あら竜児。そんな所で何してるのよ」
 背後からの声に振り返れば、そこには輝かんばかりの美少女が。
「ひょっとしてみのりんを待ち伏せ?まさか後をつけようとか考えてるんじゃないでしょうね、このキモ犬」
 彼女は男にずかずかと近づいて。男は彼女の言葉に困ったような表情に。
「あのなあ大河……何って、お前を迎えに来たんじゃねえか。ちゃんと課題は終ったのか?」

「子供じゃないんだから、わざわざ迎えにくる必要なんて無かったのに」
「もう随分夜も早くなってきたからな。女子一人で暗い中帰らせるわけにはいかねえだろ」
「あんたねえ……私を誰だと思ってるの。仮に変なヤツが出てきても返り討ちにしてやるわよ」
「そーゆー問題じゃねえって」
「というか、むしろ竜児が不審者よね。さっきも一年生がドン引きしてたし、通報されなかったのが不思議だわー」
「……警察に職務質問ならされたけどな。二回ほど」
「っぷくくく……さ、流石は顔面凶器……よく逮捕されなかったわね?」
「制服だし、学生証見せれば問題ねえんだよ……正直対応に慣れてる自分が少し悲しいけどな」
「ぷぁっはははは!」
「ああ糞、笑いたきゃ笑え……」
「ところで竜児、職務質問二回もって、あんたどれだけ待ってたのよ?」
「おう、まあ一時間ぐらいかな」
「一時間って……ご飯はどうしたの?」
「今日は泰子は用事で早出だし、まだ食ってねえよ」
「先に食べてから来ればよかったのに」
「一人で食べててもいまいち味気ねえだろ」
「ん……それもそうね。あ!それじゃメニューのリクエストしていい?」
「残念ながら不可だ。下拵えはもう済んでるしな」
「ぶー、竜児のけちー。セコ犬ー。居残りしてまで美術の課題を終らせた私を労おうって気持ちは無いわけ?」
「そもそも大河がコケて筆洗いの水をぶちまけたからだろうが、描き直しになったのは」
「……うー」
「ま、安心しろ。今日はポークソテーだから」
「よっしゃー!肉ー!」
「子供かお前は……」





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