「みなさんこんにちは。『斜め読みじゃわからないとらドラ!』の時間がやって参りました」
「おう、なんだそりゃ」
「このコーナーは、原作のわかりにくいところを勝手に語るコーナーよ」
「スレチじゃねぇか」
「いいのよ、埋めネタなんだから。これ書いてる奴もSS書かなくなってるから、こうでもして社会の役にたたなきゃ仕方ないでしょ」
「スレの埋め立てが社会の役に立つとも思えねぇけどな。てか、単に作品語りしたいだけだろ」
「ま、そんな所よね」
「認めやがった」
「そんな話はどうでもいいわ。とにかく、隠れた部分を語るの。竜児には大事なことよね」
「隠し味の話か?まかせろ」
「………」
「頼むから、下からさげすむような目で見るのは止めてくれないか」
「まったく。これだから哺乳類は困るわ」
「一応、お約束だからここでもつっこんどくけど、お前、哺乳類じゃ無かったんだ……」
「うるさい!とにかく『とらドラ!』には語られていなくて、匂わされている重要な事が多いの」
「まぁ、変わった小説だよな」
「何言ってるのよ。堂々たる王道よ」
「はぁ?」
「だいたい、小説ってのは内面描写を全部文字にして説明しちゃいけないのよ。日記じゃないんだから。間接的な表現で匂わすくらいがいいの。そうして初めて読者の知的な喜びを引き出すことが出来るの」
「そうなのか?」
「そうよ。ところが、いわゆるオタク層はそういう小説のあり方に食いつかないの。てか、小説なんか高校卒業以来読んだことないって連中ばかりよ。だから、彼等向けに簡素化して、登場人物の内面までやたら丁寧に描写したり、
完全にはしょるのがライト・ノベルの一つの特徴よ」
「おう、知らなかった」
「そういうわけでラノベの何もかも書いちゃうやり方ってのは、小説としてはあまり褒められた物じゃないわ。ところがここにねじれがあるの」
「なんだよ」
「オタクって本来細かい所にうるさいでしょ」
「まぁな。あれこれよく知ってるよな」
「彼等の嗜好からすると、隠されている事を読み取るってのは快感のはずなのにね。読書に関してはそれを放棄してるの」
「放棄しないやつはオタクじゃなくて読書家じゃないのか」
「そんなところね。とにかく、本来細かいところにうるさいはずのオタクが暗喩に食いつかないから、そういう本来は小説として重要なものを削ったのがラノベよ」
「そうか」
「ところが、ラノベである『とらドラ!』は暗喩だらけ。変な話よね」
「そう言われるとそう思えなくもないな」
「それに気づいているオタクもいて、いろいろ書いたり口角泡飛ばしたりしてるけど、まぁ、阿鼻叫喚ね」
「そ、そうなのか」
「これ書いてる奴もどこかで話したいんでしょうけれど、うざいオタクに噛みつかれると口げんかで負けるだろうからこうして私達の会話形式で書いてるわけ。とんだヘタレだこと」
「くっ。なんとなく同情するな」
「まぁいいわ。とにかく始めましょう。竜児には辛い話が多いけど、ちゃんと聞いてね」
「なんで俺に辛い話なんだよ」
「だって、『とらドラ!』は高須竜児の物語よ。でも、それを取り囲む形で私やみのりんやバカチーの苦しい青春の話が展開するの。それが半年ちかく続くんだから、端的に言って『鈍感犬』のお話よね」
「う、胃が痛くなってきた」
「それでは始めましょう。あ、竜児なにか飲むものちょうだい」


◇ ◇ ◇ ◇


「ほれ、ハチミツきんかん」
「ありがと。じゃ、一番派手な話をしましょうか」
「大騒ぎの話か?」
「ううん。とっても静かな話よ。さらっと読むといい話だと思っちゃうエピソード」
「嫌な予感がするな。おれが鈍感とか……」
「心配しないで。基本的に全部その路線だから、予感が外れる心配は無いわ」
「……暖かい言葉、感謝するぜ」
「どういたしまして。みのりんがさ、ファール打ってクリスマスツリー倒しちゃったじゃない」
「おう。あの時の櫛枝は可哀想だったな」
「そうね。本当に可哀想だった。で、あんたは割れた星を修理するみのりんを手伝うじゃない」
「ああ、手伝うなって言われたけどな」
「そ。で、半完成の星を掲げてみのりんに言うわけよ『壊れたってちゃんと直るんだ』って」
「おう。お前の前で言うのも何だけど、あのときはまだ櫛枝が好きだったからな。なんとか元気づけたくてな」
「そう。あんたは元気づけようとしたのよね。でも、みのりんがあれでどれほど傷ついたことか。かわいそうなみのりん」
「ちょっと待てよ、なんで傷つくんだよ!元気づけられなくても、傷つけるってのはありえないだろ!」
「読みが浅いのよ。ほら、7巻貸してあげるから読みなおして」
「…………………………読んだ」
「たった一時間で。斜め読みにも程があるわ」
「ま、イブの所飛ばしたから」
「……そう。で、わかった?」
「……いや、やっぱ傷つくってのは考え過ぎじゃないか?」
「まったく。いい?ちゃんと聞いて。あのとき、竜児は自分の手の中の星を『失敗しても、やり直せるから大丈夫』という比喩で使ってるわよね」
「まぁ……そうだな。ツリー倒したって、それで終わりじゃないんだから、気にするなっていうか」
「でも、みのりんは星をそんな風に見てないの」
「どう見てるんだよ」
「いい、あの星は私の大事な飾りでしょ」
「おう」
「それをみのりんの大ファールが壊した」
「そうだな」
「それはつまり、みのりんが竜児を奪うことが、私を傷つけるってことの暗喩になってるのよ」
「………考え過ぎじゃねぇか」
「竜児。お願い。もう犬じゃないんだから。竜になって私を守ってくれるのなら、せめて3グラムくらい脳が必要よ」
「3グラムかよ!」
「7巻の始まりを思い出して。みのりんは大スランプでしょ?」
「おう、そうだな」
「それは集中力を欠いているからよ。直接の原因は6巻の終わりでバカチーが言った例のセリフ」
「『罪悪感は、なくなった?』ってやつか」
「そ。あのセリフそのものも、6巻の中では唐突すぎて浮いてるわよね。このころのバカチーは意味不明な行動が多いんだけど、それがきちんと説明されるのは9巻と10巻だから仕方が無いわ。
ともかく、この一言でみのりんは『高須君を好きになっても良いのかもしれない』って思うようになる。だって、私が北村君を好きだって知ってしまったから」
「お、おう」
「で、本気で好きになっちゃったわけよ」
「急だな、おい」
「なに言ってるの。全然急じゃないわよ。みのりんはあんたの気持ち、4巻で気づいてるのよ」
「え?」
「『え?』じゃないの。花火のシーン。あんたが伝えたかった気持ちはちゃんと伝わってるの。でも、その時は私があんたを好きだって誤解してるから、私に譲らないといけないと思ってる」
「そうか、6巻の『傲慢』ってセリフにつながる訳か」
「そ。だから5巻ではあんたとの距離感がおかしくなってる。そこに来て、6巻で北村君の家をあんたと訪ねるシーン。あれでまたあんたに惹かれちゃうの」
「そうなのか?」
「まったくもう。あのときみのりんはあんたの頭上に飛んできた何かをみたような顔をして、そのあと顔をくずしちゃうでしょ。つまり、4巻であんたに一緒に探そうって言ったUFOをみちゃったのよ。自分の中の恋心に気づいちゃったの。
高須竜児っていう男の子が好きだって気づいちゃったのよ。だから幸せに蕩けそうな顔をしたわけ」

「なんだよ、あと一歩だったのかよ!」
「まぁ、話は簡単じゃないんだけどね。とにかく、みのりんは6巻の時点で自分があんたに惹かれていることに気づいている。でも、私に譲らなきゃっておもってる。強くなる想いを一所懸命押さえてるの」
「それが川嶋の一言で」
「そ、はじけちゃったのね。強く巻かれていたゼンマイみたいにね。だからさ、7巻の出だしの時点で、みのりんとあんたは完全に両想いなのよ」
「え……えええ!?」
「おめでとう竜児。ていうか、ごめんなさいなのかしら。折角みのりんとうまくいってたのに、悪い女にひっかかっちゃわね」
「バカ言え。冗談でも怒るぞ」
「えへへ。とにかく7巻のみのりんの気持ちは嵐といっていいわ。竜児の事が好き。でも、そのせいでソフトはスランプになっちゃった。おまけに、私が本当に竜児の事を何とも思っていないのか、実のところの自信がないの」
「まぁ、1巻で俺はお前の運命の人だって言い切ってたからな」
「そう。結果的にはあたりだったけどね」
「お、おう」
「で、そういう心理状況の中で打ち上げたファールがツリーの上の私の星を壊しちゃった。これはみのりんにとっては最悪の事態を暗喩してるように見えちゃってる。あんたが掲げた星は、みのりんが竜児を好きになることが私の心を粉々にする、
私達仲良しグループを壊してしまうってことの暗喩なの」
「俺の気持ちが伝わってねぇじゃないか!」
「そ。むしろ逆に作用してるわ。だからみのりんは言ったのよ『直るかどうか、私にはわからない』って。竜児が見せつけたあの星は、みのりんに取り返しの付かない事態を予言してるの。しかもよ、その直前に、あんたはみのりんの呼びかけにいちいちこたえてるでしょ?
ちゃんとここにいるからって。あれって心にしみるわよ。辛いときに横に居てもらえてみのりん完全にノックアウトよ。でも、その直後にあんたが掲げて見せるわけ。破滅の象徴を」
「………」


◇ ◇ ◇ ◇ 


「ごめんね。竜児。思ったよりこたえてる見たいね。でもね、このシーンはもっと大きな事を暗喩してるの。暗喩というか象徴ね」
「まだあるのかよ」
「このシーンは『高須竜児の物語』の中ですごく重要な位置を占めてるの。進級した頃、みのりんの顔をみるだけで言葉に詰まってたあんたが、このときはっきり自分の気持ちをみのりんにぶつけようとしてる。
パーティーに誘うシーンなんて、告白そのものよ。でもね、みのりんは同じシーンであんたと付き合うと悪いことが起きるんじゃないかってはっきり意識してしまってる。それはつまり」
「つまり」
「このシーンはあんたのみのりんへの恋は最後まで実らないってことを象徴しているって思わない?」
「あんまり思えねぇけど」
「でも、同じ星を挟んで違うことを考えているってことでしょ。逢坂大河を挟んで違うことを考えているってことでもあるし、二人は同じ恋を挟んで違うことを考えているってことでもあるわよね」
「……えらくきついシーンだな」


◇ ◇ ◇ ◇ 


「そうね。『とらドラ!』らしいシーンだけどね。ついでながら、このシーンには別の意味づけもできるの。ちょっとうがちすぎだけど」
「まだあるのか。もう驚かねぇけど。で、どんなだ?」
「高須竜児とソフトボールは両立しないってこと」
「おいおい」
「ま、このシーンというかこの巻でみのりんはそれを考えたはずなのよ。で、最後には竜児への恋心じゃなくてソフトボールをはっきりと選んだの。私への気持ちもあったけどね。とにかく、自分の意志でみのりんは決めた。それが10巻の『決めることだよ』って言葉につながり、
廊下で走りながらの告白につながり、『報われる』って言葉につながるの。誰にも知られずに一人で苦しい決断をして、一人で涙を我慢していた。それをわかってくれる人がいるなら、それが高須竜児その人なら、報われるって話よ」
「やっぱり考えすぎな気がする。櫛枝はお前に遠慮して俺をゆずったって思うぞ」
「それも事実なんだけどさ、それだけだと『決めることだよ』って言うあの台詞に重みがなくなっちゃうのよ。ソフトボールで頂点を目指す。そう決めたから、みのりんはあんたを諦めて白球の飛んでいく先を見つめつづけることができた。
胸の痛みに崩れそうになっても二本の足で踏ん張ることができた。そう思わない?」
「…………俺、そこまで櫛枝のこと考えてなかった」
「仕方ないわよ。みのりん複雑だもん」
「俺の頭が単純すぎるのかもしれねぇ」
「ま、みのりんの気持ちをあんたが分かっていたかどうかは別として、あの言葉は『高須竜児の物語』の中で重要な意味を持っているわよね。最終的にはあの言葉の裏にあるソフトボールの話があんたの背中を押して、私の手をつかんでくれたんだから」
「確かにそうだな。櫛枝には感謝しねぇと」
「本当にそうよね」

「高須、逢坂、ちょっといいか?」
「おう、北村!」「き北村君!?」
「ずばり容量が心配だから簡潔に行くぞ、『罪悪感』の件なんだが」

「櫛枝の根本は『大河には高須君が必要』という事が最初から最後まである、初期の台詞を借りると『運命の人』これが起承転結の起だな
結の部分はクリスマスイブに泣き崩れる逢坂を目撃した時、つまり『自分の推測が少しも間違っていなかった』で、纏まる訳だ。」

「が、ずばり逢坂にとって必要なのは男(彼氏)としての高須竜児なのか、亜美の言葉を借りると父親役としての高須竜児なのかが解らなくなる時期がある」

「それって…私が生徒手帳に挟んだ北村君の写真を見たときってこと?」

「うむ、ずばり正解だ、あの時の櫛枝の心境としては、『大河が好きなのが北村君なら私が母親役になれば、父親役の高須君と付き合っても問題無いのではないか』
『いや、大河が好きなのは高須君なはず……でも、それなら何故北村君の写真を…』と、1人葛藤している所であの台詞だ」

「罪悪感…ね」

「そう、ずばり亜美は最後の救いでは無かった、見られたくなかった心の奥底まで見られてしまった、と櫛枝は感じたのだろうな
つまり、逢坂に必要なのは父親役、だから自分が高須君を好きになっても良いんだ、という考えに対して」

『「自分に都合良く解釈して」罪悪感は無くなった?』

「と、いう訳だ、結果あの時から、自分の心を押し殺しても高須と距離を取り始めた訳だな。」
「ここだけ聞くと、ばかちーが極悪人見たいね…」
「まあ、これは俺の意見、そしてワンシーンの話だ、亜美には亜美なりの考えがあった訳で、その後落ち込んでたようだしな。」

「ふーむ……所で北村」
「どうした高須、納得できないか?」
「いや、そろそろ服を着てくれ。」




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