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「はい、始まりました。新番組『逢坂さんと高須くんのラブラブアルバム』(オエッ)!
 お送りするのはこの私! 大橋の……はぁ!?
 コホン……お送りするのはこの私! 世界のアイドル! ミラクルキュートなスーパーモデル!
 亜美ちゃんこと川嶋亜美でーっす!
 この番組ではー、この春めでたく正式にお付き合いすることになった大橋高校三年生、
 手乗りタイガーこと逢坂大河さんとヤンキー高須こと高須竜児くんのラブラブカップルっぷりを、日替わりゲスト、
 皆さまからの目撃談を交えて目一杯お披露目しちゃう番……組……でー……す……。
 ……はあ……。
 ……何やってんだか。
 ……つーかあによ。あんなのよ。何よこの番組。つーかなんで亜美ちゃんが司会? 何なの? 罰ゲーム?
 この純真無垢な天使のごときぷりちーな亜美ちゃん捕まえて罰ゲームって。
 あ・り・え・ねーっ☆
 あのね。
 言わしてもらうけどね。
 あのちんちくりんと変態掃除魔のベタベタイチャイチャネチョネチョっぷりなんてね。
 かっ………………っんっ………………っぺっ………………っきっ!
 見飽きてんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
 あ?
 ふざけんなよ?
 舐めてんの?
 舐めてんのかっつってんの!
 毎日毎日飽きもせずところ構わずイチャイチャイチャイチャ見せつけやがってるあのバカップルどもをね?
 亜美ちゃん……ううん、大橋高校全体が目が腐って反吐が出るほど見飽きてんだよ!
 それを何。あえて語れと。語らせろと。聞けと。聞かせろと。週五日九時から四時まで延々と苦行のように……
 いや、拷問みたいにあっつっくっるしい光景を、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んで強制鑑賞させられているのにもかかわらず、その上それを描写せよと。
 そう言うんだ? 亜美ちゃんにさせるんだ?
 ……はーーーーーーーーーーっ……
 さて! 皆さんに親しまれてきたこの番組ですが、残念ながら今回で最終回!
 亜美ちゃん超寂し〜い☆(くすん)
 皆さん今までありがとー!
 次回からは、この私、宇宙のカリスマアイドル! キュートリーにエスペシャリーに大・活・躍・中!
 亜美ちゃんこと川嶋亜美がお送りする、全人類の全人類による亜美ちゃんのための番組、
『亜美たんちょーぷりちー☆〜どうしてそんなにかわいいのっ!?〜』
 を、お送りします! みんなーっ、亜美ちゃんへの質問、亜美ちゃんのお茶目な目撃談、亜美ちゃんへの無限の賛辞などなど、おたよりどしどし送ってね!
 ではまた次回! ばいばーい!」
「おいおい、ゲストも紹介しないで勝手に番組を最終回にするなんて、さすがにそれはちょっといただけないぞ亜美よ」
「あ? ……ああ、なんだ祐作か。いたんだ。全然気づかなかったわ。わりーわりー」
「逢坂と高須の様子を紹介するんだろう? それだったら俺もいい情報を沢山持っている」
「……ねぇ」
「なんだ亜美、よく聞こえない」
「……ぃるぁねえっっっつってんだよこのタコ! 坊ちゃん刈り! メガネ! 童貞!」
「ははは、今更お前に何を罵られようが一向に堪えんな!」
「……チッ、あたしこれからあんたのこと駄作か田吾作か抜け作のどれかで呼ぶわ」
「ああ、呼んでくれ!」
「……あーあめんどいのが来ちゃったよ。しゃしゃり出てきちゃったよ。しかも両手一杯のハガキを……って二毛作、何よそれ?」

「早速パターンから外れた呼び方だな。そしていい質問だ。これは何を隠そう、
 みんなから『逢坂さんと高須くんのラブラブアルバム』宛てに寄せられた逢坂と高須のラブラブっぷりの克明なルポタージュ、もといおたよりだ」
「いやああああああああああああああああああああああああああああ! 何考えてんの! 何で生きてんの! 何でそんな無駄な労力使っちゃってるわけ!?
 みんなどうかしてるよ! みんなの人生はただただ亜美ちゃんを崇め、奉り、足元にひれ伏すためだけに存在してるんだよ!?
 あの腐れピグミーマーモセットと殺人ゴミムシダマシの身の毛もよだつ絡みをよりにもよって紙に書きつけるなんて資源の無駄遣いもいいとこ!
 確実に地球の寿命縮めてるよ! MOTTAINAI!」
「最後のは高須のキメゼリもががが」
「うっさいんだよ凡作! うぜっ! マジうっぜ!」
「いてて、亜美お前爪を伸ばしすぎだ。仕事とはいえ何とかならんのか?
 ……まあ、そう目くじらを立てることもないじゃないか。お前だってあいつらのことを祝福していただろう?
『よかったねタイガー』ってむせび泣いていたのは……おい、やめろ、それは使いようによっては鈍器だ、危ないぞ、やめろ、やめとけ、お前の職歴に傷はつけたくない。
 ……分かった分かった。どうどう。
 いやあ、お前も変わったもんだよ。それもやっぱり高須たちのお陰だな」
「…………」
「図星だろう? お前がモデルを始めてから俺は随分寂しい思いをしていたんだぞ。またこうして素の亜美を見られるようになって俺は本当に嬉しい。
それだけでもあいつらに感謝している。高須には『嫌いじゃない』なんて言い方をしたが、実は俺、わがままで横暴で腹黒いお前が大好きなんだ」
「は!? うわ、気持ち悪い! ちょっとこっち見ないでよ。視線で穢れる。厄がつく」
「小さい頃は一緒に風呂に入り同じ蒲団で眠った幼馴染をお前、素で気持ち悪いと言ったな。よろしい。お前と本音で語り合えるのなら俺は気持ち悪い男で結構だ」
「ある意味男らしいけど今一瞬本気で通報しようかと思ったわ……いや、ほんとに通報しようかな。逮捕されるレベルだよね?
 亜美ちゃんが悲鳴上げたら官憲はあんたを断罪するよね? 亜美ちゃん正しいよね?」
「まあまあ、そういうな。二十五になってもお互い独身だったら結婚しようと約束した仲じゃないか」
「してねーし! つーか二十五って! 若えし! 諦めはえーし!」
「では早速おたよりを紹介しよう。すっかり時間が押してしまった」
「このまま終わろうよ。残り時間はなんか曲かけちゃえばいいって」
「最初のおたよりです! ……って、そういえば俺はゲストだった。亜美、お前が読め。司会だろう?」


「ええー……。
 ええー……。
 ええー……。
 ……ほんとにぃ? マジかよ……マジで紹介すっ気だよこいつ……。
 あー、はいはい、はいはいはいはいわーかーりーまーしーたー。読みゃいいんだろ読みゃ」
「ほら、元気を出せ。モデルだけでは終わらないと言っていたお前だ。この程度を苦にしていては先が思いやられるぞ。亜美、お前には才能がある。お前はもっと輝けるんだ!」
「ええー……(三パーセントほど気を取り直す)……ふう。
 はい。では最初のおたよりです。大橋市にお住まいのペンネーム『縦ノリタイガー』さん。はっ(笑)
『いつもお美しい亜美様こんばんは』
 こんばんは☆
『先日商店街でタイガーと高須くんを見ました。なんか言い争っているみたいなんでちょっと聞き耳立ててみたら、タイガー、
「竜児だっこー! だっこしてくんなきゃもう一歩も動けない!」
「お前これから特売に行こうってのに何言ってんだよ」
「やだやだ! だっこー! ねえーりゅーうーじー!」
「お前なあ……そんなこと言う子にとんかつは食わせられねえな。あーあ、折角一緒に夕飯が食える日だってのによ」
「え!? とんかつ!? それを早く言いなさいよ! 早く行くわよグズ犬! だっこはお家に帰るまで勘弁してあげる!」
 って感じでした。だっこって(笑)周りの人の苦笑いにも全然気づかない様子でイチャつく二人は逆に清々しかったっす』
 だそうです……へー、ふーん、そーなんだー。
 はい。じゃあまた来週! いつも応援ありがとー☆」
「だから終わらせるなって。亜美、お前もプロの端くれならもうちょっと気の利いたコメントはできないのか」
「はああぁぁああ? コメント? ……チビ虎は甘ったれでちゅねー! はい! 利いた!」
「一応はお前の番組なんだから、もっとこう盛り上げようとする意志をだなあ」
「はー、あー、あー、はいはい、盛り上げりゃいいのね。愚民どもを食いつかせりゃいいのね。
 まあ亜美ちゃんの番組ってだけで全人類は玉音のように平伏して傾聴してると思うけど? そこまで言うなら盛り上げてやんよ? やってやんよ?
 ……はい、よいしょ。パンツ脱ぎました。ほーら。亜美ちゃんスカートでノーパンですよー。ほれ、これで全国のキモヲ……健康なオットコノコたちはもう釘づけよ。
 毎回正座でご拝聴だよ。盛り上がったべ? これでいいのかよオイ。指サック」
「亜美、自分を安売りするもんじゃないぞ。というかそういうのは俺の役回りだ。もろち……もちろん俺もパンツなんか穿いていない!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


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--> Next...?



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