十二月、小春日和の日曜午後。
 さすがに休日はクリスマス会の準備から解放され、買い物帰りの竜児と大河は公園のベンチでのんびりと。
 竜児の横にはエコバッグ。大河の腕には紙袋。
「た〜いやっき、たいやき〜……あら?どれが何だったっけ?竜児、匂いでわからない?」
「残念ながら俺は常人の百万倍の嗅覚は持ってねえ。まあ、食えばわかるだろ」
「それもそうね。それじゃはい、これ竜児の分」
 二人並んでタイヤキをぱくり。
「あ、これつぶあんだ。竜児のは?」
「カスタードだ。うん、けっこう美味いな」
「どれどれ、一口ちょうだい?」
「おう、それじゃ一口ずつ交換な」
 と、急に大河がキョロキョロと。
「大河、どうした?」
「ん、今なんか聞こえたような……あ!竜児、あれ!」
 大河が指差した先は木の枝の上、下りることが出来ないのか、みいみいと哀しげに鳴く子猫の姿が。


 竜児に肩車させて大河が助けた子猫は、今は大河の膝の上で撫でられながら喉をゴロゴロと。
「……ねえ竜児、この子飼っちゃ駄目かな?」
「いや、首輪してるし、どこかの飼い猫じゃねえのか?」
 子猫は白地に頭から背中にかけてが茶トラのブチで、その首には真っ赤な首輪がつけられていて。
「一匹であんな所にいたんだもの、きっと捨てられちゃったのよ。だから、ね?」
「迷い猫かもしれねえだろ。飼い主が捜してたらどうするんだよ」
「それじゃ、この辺に貼り紙とかして、飼い主が出てこなかったら」
「うちにはインコちゃんがいるし、そもそも犬猫の類は禁止だ。大河の家で飼うことになるぞ?」
「うん、わかってる」
「仮にも命を預かるんだ、可愛いだけじゃ済まないこともあるぞ。餌やトイレの世話に、病気や怪我をすることだってある」
「大丈夫、きちんとやってみせるわ」
「……本気みたいだな。わかった、それじゃ……」
「トラ!」
 突如かけられる声。見ればそこには涙目で息を切らせた少年が一人。
「あの、すみません、その猫……」
 子猫を大事そうに抱えて帰る少年を、大河は微笑みながら見送って。
「よかったじゃねえか、捨てられたんじゃなくて」
「……うん」
 竜児は大河の頭をくしゃくしゃと撫でて。
「あの子も気をつけるって約束したし、もう飛び出して迷子になる心配もねえだろ」
「……うん」
「さ、俺達も帰ろうぜ」
 言って竜児はベンチに戻り、エコバックを手に振り返って、
「ぶふっ!」
「竜児?」
 唐突に噴き出したらしい竜児の声に大河が振り向けば、竜児はなぜだか身を捩っていて。
 どうやら必死で笑いを堪えて、でも完全には抑え込めていないらしい。
「ちょっと、どうしたのよ?」
「わ、わりい……ちょっと、ツボ、ド真ん中に入っちまった……くっく……」
「何が?」
「いや、さっきの猫さ、妙な既視感があったんだけど……くく……今、気づいちまって……
 大河、そっくり……うっくくく……」
 白い体、背中まで覆う茶トラの模様、首元には赤い首輪。
 白いコート、背中まで覆う栗色の髪、首元には赤いマフラー。
「それで名前がトラだっていうんだから、もう……くっくっく……」
 目尻に涙まで滲ませながら笑い続ける竜児。
「ほっほ〜う」
 大河の顔にも笑みが……但し、竜児とは逆に冷ややかなものが……浮かぶ。
「つまりあんたは、私の事を子猫ちゃんだとか飼い猫だとか思っちゃったってわけね……?」
 その雰囲気に、さすがに竜児の笑いも止まる。
「いや、別にそこまでは……」
「それはちょっと、さすがに黙っていられないわねえ……」
「お、おい、大河……そうだほら、今はエンジェル大河様なんだろ?サンタさんが見てるぞ?」
「安心して竜児。今日は日曜……安息日だから、きっとサンタさんもお休み中だもの」
「まま、待て、落ちつけ、話せばわかる!」
「問答無用じゃあ〜〜っ!」




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