「……さすがに大変だったわね」
「……おう」
 『逢坂大河が帰ってきた』――その事実は櫛枝実乃梨を始めとした元クラスメイトを熱狂させるに十分で。
 大河は愛情溢れるスキンシップにもみくちゃにされ、北村の仕切りが無ければ危うく元2−C全員が始業式をサボるという不名誉に預かるところであった。
 式が終れば終ったで、息をつく暇もないほどの質問攻め。
 その中で大河が竜児との婚約宣言をして、竜児もそれを胸を張って肯定してしまったものだから現場は狂乱・騒乱・大混乱。
 誰かに連れてこられた独身(30)に至っては卒倒する始末。
 結婚式の真似事までさせられそうになるのをどうにかこうにか脱出し――代償として北村の「あなたの恋の応援団」への出演を確約させられ――やっと二人きりの帰り道。
「だけど大河、明日から大変だぞ」
「大丈夫、勉強なら休んでる間もきちんとしてたから」
「いや、それもあるけどさ」
「確かに教師に睨まれてるのはちょっとうっとおしいかもね……でも幸い竜児も私も成績はいいし、しばらく大人しくしてれば大丈夫でしょ」
「大河は先生達の顔色うかがったりとか、一度たりとてしたこと無いじゃねえか。そうじゃなくてだな」
「何よゴチャゴチャと」
「知らねえだろうけどな、大河は……というか俺もだけど……今や学校中の有名人なんだよ」
「……何で?」
「何でってな……本気で言ってるなら呆れるぞ、俺は。ミス大橋が駆け落ちエスケープかまして話題にならないわけねえだろ」
「かっ……かけおち……って……」
「そこで今更赤くなるなって。あながち間違っちゃいねえだろ」
「ま、まあ、そうだけど……」
「それで俺だけが帰ってきたもんだから、ベタなのからトンデモまで色々と憶測と噂が広がったみたいでな……。
 まあ最近はだいぶ落ち着いてきてたんだが、大河も帰ってきたからには今度はどんな尾鰭がつくのやら……」
「そっ……それは……竜児は大丈夫だったの?」
「うーん、最初は多少凹んだりもしたけど……まあ、無責任な噂なんかより確実なものがあったから、さ」
「……確実なものって?」
「……わかってて聞いてるだろ、その表情は」
「でも聞きたいの。竜児の口から」
「おう……その、大河との絆が、だ」
「えへへ……竜児、大好き」
「俺も好きだぜ、大河」
「……ま、まだちょっと、照れる、わね」
「お、おう」
「そうだ、けっこう遅くなっちゃってるけどやっちゃんのお昼ご飯大丈夫?」
「おう、泰子な。四月から昼の仕事に変わったんだよ」
「え!?毘沙門天国は?」
「ナンバー2だった静代さんが新しいママやってる。で、泰子は新しくオープンした『お好み焼き・弁財天国』の店長だ。まあオーナー同じの雇われ店長だけどな」
「へー……」
「ちょうどいいから、そこで昼飯食って帰ろうぜ」
「急に行ったらやっちゃんびっくりするかな?」
「おう、びっくりするびっくりする。でもってすげー喜ぶぞ」
「ん、それじゃ行こうか」
「おう、こっちだ」
 竜児は大河の手を握り、
 大河はそれを握り返し、
 二人は並んで歩き出す。




作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system