2−Cの教室で大河にあった。川につかりながらいえなかった、「好きだ」をいった。
大河は真っ赤になりながら「私も好き」といった。しばらく見つめていたが、竜児が校庭にいってみんなに会おうといった。
どちらからというわけでなく手をつないで校庭に向かった。そこには北村が、みのりが、亜美が、元2−Cの仲間がいた。
大河を見つけると集まってきてそれぞれが思っていたこと口々にまくした。そして竜児と大河が手をつないでいるのを見て笑顔を向けた。
「もう離しちゃだめよ。」と亜美がいう。竜児は手をいっそう強く握った。
一通りの歓迎が済んだあとで大河は、見せたいものがある、みんなはちょっと待っていてといって校門の外に竜児を引っ張っていった。
校門を出てすぐのところに赤いポルシェが停まっている。竜児も見覚えがある大河の母親の車だ。大河が近づくと、大河の母が降りてきた。
大河は助手席をあけると、そこに固定されているベビーベッドがあり、タオルなどに埋もれるように赤ん坊がいるのが竜児にもわかった。
「あのときの赤ちゃん。」
「へ?」
「パパでちゅよ。あいたかったでちゅね。」
大河は開いている窓に上半身を突っ込んで赤ちゃんに話しかけた後、体を窓から引き抜いて竜児の方をみた。
「お父さんとしてちゃんと抱っこしてあげて。」
「へ?」
竜児は固まった。どうやら自分と大河の間の・・・え?
「あのあとね、ママと暮らし始めてすぐに赤ちゃんがいることがわかったの。ママはダメだって言ったんだけどやっぱり生むっていって。その代わり、
高校は休学したので今年はまた3年生よ。」
ちょっと重たい話を一息にいった。
「抱っこ。」
ドアを開けてせかす大河に押されて、油のきれたロボットのようにぎこちなく竜児はベビーベッドの方に差し出した。
それを後ろで見ていた大河の母親がぷっと吹き出してごめんなさいといった。
大河は振り返って、せっかくのいい雰囲気だったのにダメじゃないという。竜児にもやっと事情がわかった。子供と言うのは狂言で、大河の弟だとわかった。
大河との再会で舞い上がっていて思いがめぐらなかった。よく見れば新生児というにはそれなりに大きい。
「ばれたか。そうよ、私の弟。」
「悪かったわね竜児君。」大河母が笑いながら謝る。
「はぁ。」
かなり気が抜けたせいか怒る気力もおきなかったし、何か現実でもいいかと思ったのも確かだ。
「みんなに、見せてきていい?」
「転んだりしないようにね。ここで待っているから、あんまり長くならないようにね。」
大河は車からベビーカーを引っ張り出して手際よく組み立てる。
「ねぇ、竜児。」
「何だよ。」
「みんなにも、私と竜児の赤ちゃんだって紹介しない?」
とりあえず、竜児が押していってとベビーカーごと押し付けられた。
暖かい春の日差しのなかベビーカーを押して桜の下を歩く、そのちょっと後ろを大河が歩く。幸せってこういうものかと竜児は桜を見上げて思った。
大河と突然現れた赤ちゃんに校庭がもう一度大きく沸いたのは当然だった。
おわり。
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