「大河、ちょっといいか?」
「何よ、改まって」
 竜児に真剣な様子で話しかけられ、大河は思わず居住まいを正す。
「四月からのことなんだけどな……俺は大学の近くに部屋を借りるつもりだ」
「……あんた、やっちゃんはどうするのよ」
「その泰子と相談して決めたことだ。それに、週末は極力こっちに帰ってくるつもりだし」
「まあ、それならいいけど……なんで?」
「先生達の話だと、理系は専門課程に入ると実験やレポートでかなり時間取られるそうなんだよ。
 そうなると、ここから通うのは時間的に色々と無理が出てきそうなんでな」
「そうなんだ……だけど、なんでそれを今私に言うのよ?」
「実は、家賃の問題がネックでさ……じいちゃんの援助に頼り過ぎるのもどうかと思うし……
 で、ものは相談なんだが……大河、よかったらルームシェアしてくれねえか?」
「……はあ?」
「ほら、二人なら家賃も折半出来るし、せっかく学部違うけど同じ大学なんだしさ。
 大河だって通学するのに近いにこしたことはねえだろ?」
「そうねえ……」
 と、大河の唇の端がにい、と吊り上がり、それを見た竜児の背筋に戦慄が走る。
 なぜなら、それは大河が勝利を確信した、あるいは相手の弱点を掴んだ時の笑みだから。
「ねえ竜児……それだけなの?」
「そ、それだけって……何がだよ」
「ルームシェアとかいうのの理由よ。本当に家賃を安くあげたいってだけ?」
「う……それは……」
「もしそうなら、私にはあまりメリット無いわよねえ……別に家賃節約する必要もないし……
 どうしようかしらねえ……」
「ぐ……わ、わかった……白状する……」
「あら、何を?」
「お、俺は、その……大河と二人で、一緒に暮らしたいんだよ」
「ふふん、最初から素直にそう言えばいいのよ」
 得意げに胸を張る大河と、赤い顔のままうなだれる竜児。
「大体ね、ルームシェアなんて回りくどい言い方しないで、単に同棲って言えばいいじゃないのよ」
「いや、それは……なんか生々しくねえか?」
「言い方変えてもする事は一緒じゃないの」
「そりゃそうだけどさ……で、いいのか?」
「うーん、どうしようかしら……」
「お、おい?」
「う・そ。OKに決まってるじゃないの」
「おう、よかった……」
 大河は竜児の頬に軽くキス。
「よろしくね、竜児」
「おう、これからもよろしくな、大河」


「ところで竜児、四月からってことは……」
「ん?どうした?」
「ううん、なんでもない」
「?」
「うふふふふふふ……」(『解禁』だものね……)
「お、おい、大河?」




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