「こんなのどう?」
 大河から竜児にメモ用紙(チラシの裏)が渡される。
「『初雪や これが砂糖なら 糖尿病』
 ……パクリの上に字数が合ってねえじゃねえか。どうせパクるなら、そうだな……」
 竜児がサラサラと書き込んだのは、
「『雪山に ハの字ハの字の スキー跡』
 うわ、ひっど。大体スキーでハの字って何よ?」
「ほら、確か斜面を登る時は板をハの字にして歩くんだろ?やったことねえからわからねえけど」
「私も知らないわよ、そんなの。
 ……っていうか、なんでこのクソ暑い中秋だの冬だのの句なんてものを考えなきゃいけないのよ」
「仕方ねえだろ、春夏秋冬それぞれの季語を入れた俳句を作れって問題なんだから。
 とにかくこいつを終わらせれば国語はクリア。後は英語と数学をお互いに写しあえば夏休みの宿題は完了なんだし、さっさとやっちまおうぜ」
「う〜ん……冬……冬ねえ……」
「俺は秋と冬は出来たぞ」
「どんなの?」
「秋が『松茸と 財布見比べ 諦める』で、冬が『冬至来て 南瓜料理に 精を出す』だ」
「……なんか、主婦が作った川柳みたいね」
「う、うるせえ。そういう大河はどうなんだよ」
「そうね〜……あ、冬の思いついた。『クリスマス 白い天使が 舞い降りる』なんてのどう?」
「綺麗は綺麗だけど、なんかもうどっかにありそうだな、それ。
 おう、春でいいのが出来たぞ。『春の夜 桜ひとひら 舞い込んで』」
「あら、竜児にしてはやるじゃない」
「いや、こいつは大河のおかげだな」
「は?何で?」
「ほら、そこの……」
 竜児が指差したのは、襖の穴を塞いでいる薄桃色の桜の花。
「大河がくれたそいつを見て思いついたんだ」
「なるほど……それなら後で感謝の気持ちを示しなさいよね、具体的に。
 ん〜と、春で『親友と 二人で歩く 春の朝』」
「おう、なかなかいいじゃねえか。二人ってのは……」
「もちろん私とみのりんよ」
「ん?朝……登校の時なら二人じゃなくて、俺も一緒に居るんじゃねえか?」
「竜児はアウトオブ眼中だからいいの」
 竜児ははあ、と溜息一つ。
「そろそろ休憩にするか」
「おやつは?」
「今日はプリンだ。市販のゼラチンで固めたやつじゃねえぞ、ちゃんと卵と牛乳でだな……」
「あ、それならクリーム乗っけて食べたい!あとフルーツも!」
「おい、今から生クリームをホイップしろっていうのか?」
「そうよ」
「おまえなあ……確かに生クリームもフルーツ缶もあるけどよ……」
「ほら、さっきの感謝の気持ち」
「……わかった、ちょっと待ってろ」
 簡易版プリンアラモードを完成させて竜児が振り返ると、大河は何かを書いていて。
「おう、何か出来たのか?」
 ひょいと頭越しに覗き込めば、
「んなっ!?か、勝手に覗くんじゃないわよこのエロ犬!」
 大河はばたばたとメモ用紙をノートの下に隠す。
「なんだよ、見せてくれてもいいじゃねえか」
「駄目、失敗作だもの」
「失敗?」
「季語を入れ忘れたの」
「おう、なるほど」
「なんかあっさり納得されるのもちょっとムカつくけど……それより早くプリン!」
「おう、今持ってくる」


『虎と竜 二人並んで 見る夕日』――逢坂大河・作




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