「すみません、ちょっといいですか?」
 突然かけられた声に竜児と大河が振り返ると、そこには汗だくの若い男が一人。
「宗教やアンケートならお断りよ」
「いや、そうじゃなくてですね……今そこでTVの生中継やってるんですけど、ちょっとしたゲームに参加してくれるカップルを捜してるんですよ」
「カップルじゃないからパス」
 にべも無い大河に目を丸くする男に、竜児は軽く頭を下げる。
「すみません、本当に俺達カップルってわけじゃないんです。ですからそういうのはちょっと……」
 立ち去ろうとする二人を、男は慌てて呼び止める。
「ま、待って下さい!この際カップルじゃなくてもいいです!もう時間が無いんですよ!賞金も出ますしお願いします!」
「……なあ大河、困ってるみたいだし、とりあえず話だけでも聞いてみねえか?」
「まあ、いいけどね。竜児の悪鬼羅刹の如き姿は放送コードにひっかかるんじゃないの?」
「そんなわけねえだろ……多分」
「はい、大橋商店街からお送りしています夕どき中継、続いてはこのコーナーです!
 『二人のために世界はあるの・ラブラブカップルシンクロクイズ!』」
「ちょっと!ラブラブでもカップルでもないって言ってるでしょ!」
「お、落ちつけって大河。そういうコーナータイトルってだけなんだから」
 あてがわれた席から立ち上がろうとする大河を、竜児は慌てて制止する。
 レポーターは一瞬驚いた表情を見せたものの、そこはさすがにプロ、すぐに笑顔に戻って、
「今回の参加者はこの元気なお二人です。えー、それでは自己紹介をお願いします。まずは彼氏の方から」
「は、はい。大橋高校2−Cの高須竜児です」
「いや〜、学校とクラスはいらないんだけど」
「す、すみません。ちょっと緊張してて……」
「高校生ってことは今は夏休みだ、いいねえ〜。それじゃ、可愛らしい彼女の方もどうぞ」
「逢坂大河よ」
「カップルじゃないって言ってたけど、それじゃお二人の関係は?名字も違うし兄妹ってわけじゃないよね?」
「はあ?私がこんな顔面凶器男と血が繋がってるわけないじゃない」
「……ただのクラスメイトです」
「……ああ、でも、ただのクラスメイトが一緒に買い物したりするのかな〜?」
「まあ、家が近所なんで……」
「ちょっと!いつまでもくだらない話してるんじゃないわよ!ゲームだかクイズだかするんでしょ!?」
「あ、はいはい、それではルールの説明です。今からお二人に質問をしまして、答えをそれぞれフリップに書いていただきます。
 その答えが二人とも同じであれば正解。違えば不正解。一問正解するごとに賞金が千円! 五問全問正解すると賞金はなんと、一万円になりま〜す!」
 二人が向かう机の上にはお互いの手元が見えないように衝立が置かれ、目の前にはマジックと数枚のフリップが。
「竜児、間違えるんじゃないわよ」
「お、おう」
「それでは第一問!彼女は彼氏のことを普段なんて呼んでいる?」
 とん、と立てられた二枚のフリップには『竜児』『竜児』
「はい正解!これはちょ〜っと簡単すぎたかな〜?」
「まったくね。こんなの間違えるわけないじゃない」
「まあいいじゃねえか大河、最初はサービス問題なんだろ」
「第二問!彼氏の星座は何?」
 竜児は『うお座』
 大河も少し考えてから『うお座』
「はい、これも正解!順調だねえ〜」
「俺、大河に話したことあったか?」
「何言ってるのよ、ばかちーとお弁当食べた時に話してたじゃない」
「おう、そうだったか」
「それじゃあ第三問!彼女の好きな食べ物は?」
 大河はすぐに『肉』
 竜児はしばらく悩んで、やっぱり『肉』
「またまた正解!……え〜と、肉?」
「えと、わりと何でも好きだとは思うんですけど、具体的に何と聞かれるとまずは全般的に肉かな……と」
「なによ、悪い?」
「い、いや、元気でいいんじゃないかな?次行こう、第四問!彼氏の趣味は?」
 今度は同時に『掃除』『掃除』
「これまた正解!男の子で掃除が趣味ってのは珍しいね?」
「そうですか?身の回りが綺麗になるのは落ちつくし、気持ちいいと思うんですけど……」
「それにしたって竜児の場合は度が過ぎるのよ。趣味を通り越して殆ど掃除フェチよね」
「えと、次行きましょう!いよいよラスト、第五問!高校生だとこれはちょっと難しいかな〜?
 彼女のお気に入りのパジャマの柄は何?」
 これは二人とも少し考えて、出した答えは『猫』『猫』
「なんと、これも正解!パーフェクトで一万円獲得おめでとうございま〜す!」
「やったわね、竜児!」
「おう!」
「だけど、よくパジャマの柄とかわかったね〜。ただのクラスメイト……なんだよね?」
「え、あの、それは……」
「偶然よ、偶然」
「本当に〜?」
「当たり前じゃないの。何よ、竜児が毎朝起こしに来るんで私のパジャマ姿を見慣れてるとでも言いたいの?」
「い、いや、別にそこまでは……。あ、そうだそうだ、賞金の一万円は何に使うつもりかな?」
「そうですね……大河、どうする?」
「ん〜……肉のいいやつ!……そうだ、鹿児島産黒豚!」
「おう、それじゃ晩飯はトンカツ……たまにはカツ丼にするか?チャーシューや角煮、豚しゃぶって手もあるな」
「やっちゃん見てる〜?今日はご馳走だよ〜」
「…………えー、以上、大橋商店街からお送りいたしました〜」



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