オープンから数ヶ月が経っても、ラーメン屋『十二宮』には入り口から長く延びる行列が。
 その先頭近く、店内まであと数メートルという所に竜児と大河は二人並んで。
 竜児が凶眼を眇めて見やるのは、前に並ぶ連中を追い散らそうというわけではもちろんない。
「ひーふーみー……次の次かその次ぐらいには入れそうだな」
 残り人数を確認して振り向くと、大河はなぜか僅かに顔を赤らめつつもじもじとしていて。
「ね、ねえ竜児……どうしよう……」
「おう、どうした?」
「その……お、お手洗い、行きたくなっちゃった……」
「……何!? おい、大丈夫か?」
「まだ限界ギリギリってわけじゃないけど……けっこう、近い、感じ……」
「我慢するってわけにはいかねえか……しかたねえ、そのへんのコンビニでトイレ借りるか」
 そう言いながら列から出ようとする竜児を、しかし大河は押しとどめる。
「私ちょっと行ってくるから、竜児はこのまま並んでて」
「おい、もうすぐ順番来ちまうぞ?間に合わなかったらどうするんだよ」
「その時は竜児一人で食べちゃって」
「まさか、大河一人で並びなおすつもりじゃねえだろうな?」
「ううん、残念だけど今日は諦めるわ。外で待ってるから」
「……」
 竜児は無言で大河の腕を掴み、行列から外れて歩きはじめる。
「ちょ、ちょっと竜児!?」
「馬鹿かお前は」
 その横顔はあからさまに不機嫌で。
「大河を放っぽったまま一人で食うラーメンが旨いわけねえじゃねえか」
「でも、せっかく並んだのに……」
「そんなもん、また並びなおせばいいだけじゃねえか、二人で。何だったら明日なり明後日なりにまた来るんでもかまわねえ」
「ちょっと竜児、そんなに引っ張らないで!痛い!」
「お、おう!すまねえ」
 慌てて手を離す竜児。大河は心配そうに覗きこむその顔を見て、溜息を一つ。
「……やっぱりあんたは馬鹿だわ」
「うるせえ」
「そんな馬鹿な所を好きになっちゃった私も馬鹿かもね」
「……お、おう……」
「さ、もう一度並びましょ。早くしないと時間が無くなっちゃう」
「おい、大河……トイレは?」
「……そ、そうだった……」


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