「亜美、ちょっといいか?」
 お昼の放送を終えて教室に戻って来た北村が、亜美に声をかける。
「なによ裕作」
「いや、さっき先生にこいつを渡すように頼まれてな」
 そう言って北村が差し出したのは薄い冊子。
「……ん?」
 パックの牛乳を啜りながら、なんとはなしにそれを眺めていた竜児の脳裏にふと浮かぶものが。
「なあ北村、それってひょっとして来年度の学校案内のパンフレットか?」
「おお高須、よくわかったな」
「いや、偶然話してるのを聞いたことがあってさ。だけど川嶋、あれって断わったんじゃなかったのか?」
「ちょっとした心境の変化よ。事務所通して正式な依頼もあったしね」
「なになに、亜美ちゃんこのパンフに載ってるの?」「うちの学校も思いきったことするわねー」
 傍に居た木原と香椎がきゃいきゃいと騒ぐ。
「レアアイテムだよねそれってレアアイテムだよね」「俺、先生に頼んで十部ぐらい貰っちゃおうかな〜」「何?あーみんのパンツですとな?」
 さらには話が聞こえたのか、能登と春田、それに実乃梨が周りに寄ってくる。
「実乃梨ちゃん、パンツじゃないから。パンフ。それに載ってるっていっても制服写真のモデルだけだし」
 言いながら亜美はパラパラとパンフをめくり、学校行事を紹介しているページでふと手を止める。
「あれ?これってひょっとして高須君とタイガー?」
「何!?」
 竜児が覗きこむと、亜美が指差すのは体育祭の、創作ダンスの写真の端っこ。
 確かにそこでは身長差のある二人が……抱き合っていて。
「小さいが、確かに高須だな」「この後頭部は大河だね、間違いない」
「だけど、なんで抱き合ってるわけ?」「うふふ、気分が盛り上がっちゃったとか?」
「高須、いつの間にこんなことを……」「高っちゃんい〜な〜」
「ちょ、ちょっと待て!これはコケかけた大河を受け止めただけだぞ!見てなかったのか?
 というか、この後『あんたのアシストが下手なせいだ』って殴られたんだぞ俺は!」
 慌てて弁明する竜児。だが、
「いや、その時は高須の方は見てなかったな、たしか」「実乃梨ちゃん、タイガーに何か聞いてない?」「いや〜、聞いてないねえ〜」
「もしそうだとしても、ちょうど抱き合ってる瞬間に写真撮られるのって……」「ちょっと運命的かもね?」
「今更照れなくてもいいじゃん。もうタイガーとは正式に恋人なんっしょ?」「高っちゃんい〜な〜」
 ニヤニヤと、竜児に向けられる生暖かい視線×7。
「た、大河……今すぐ戻ってきて助けてくれ……」





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