物事にはタイミングというものがある。一つでもずれると結果は全く別物になるという。
「次のニュースです。政府は来年度からの導入を予定している子供手当てについて……」
雨音が奏でる中、テレビの大きめな喋り声を手持ち無沙汰で聞き流している子虎。
 だがそれは、次の瞬間、
「……じ、ねぇ竜児ってば!」
「おう、って胡椒を余計に出しちまった……」
「あんた大丈夫、あーあどうすんのよ?」
「すまん、考え事してたもんでな」
「ふ〜ん、聞いてあげてもいいわよ。食材を駄目にした罰としてね」
「分かったって。2年生の文化祭の時のことだ。お前の親父がお金を振り込まなくていろいろ困った」
「あぁ、あの話……」
「俺はお前に親父の気持ちを理解しろって態度で接した」
 子虎は眉を動かし怪訝そうな顔で覗き込む。
「さっきの子供手当てのニュース聞いてたんだが、仮にその時施行されてたら、
お前の気持ちには気付けなかっただろうな」
「……へぇ、音は聞こえてるのね」
「お、落ち着け! お金の心配をしなくて済むから親父の狙いも分からなかったし、
そうすれば喧嘩してたとはいえ櫛枝との仲も違うものになってたかもな」
「そうね、悪い意味で」
 緊張感が走る。
「あんたが福男レースに参加して無ければみのりんの印象には残らないだろうし、逆に関係悪化してたと思う。少なくてもあんたを見直すことは無かったでしょうね」
「そりゃ言い過ぎだろ大河」
「あら、へたれなあんたのことだからきっかけ失って、『はいさようなら』になってたわよ」
 それに今の関係だって……と言いかけて口をつむぐ。
「はいはい。そう考えると、子供手当てが無かったことには感謝しなきゃいけないかもな」
「もう、すぐ考え込む。そのおかげで今こうしてここにいるんだから、私に感謝しなさい」
「おいおい」
 穏やかな風が窓から流れ、竜虎とも表情が綻んだ。
「それより夕食はまだかしら?」
「コショウを振り掛けすぎたからまだ時間かかるぞ」
「新たな味に出会えると思えばいいじゃない。あんたが作ったこと自体がご馳走なんだから」
「お、おう」
「ただし不味かったら、明朝ごみ収集場にいることになるわよ♪」
「へいへい」
〜物事にはタイミングというものがある。一つでもずれると結果は全く別物になるという。
良い方向にも悪い方向にも転がるが、それらもひっくるめて人生だ。〜
 いつの間にか雲一つ無くなり、カーテンを揺らす風がすごく暖かい。
 そんな夕暮れ時のひとコマ。



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