「だからさ」
と、向き直って頬を桜色に頬を染め、ほほえみかける大河。
竜児はふと嫌な予感がした。いや、どうやら大河がラブレターを書いてくれそうだと言うのは、とても嬉しいのだ。素直に嬉しい。しかし、薔薇の花びらを思わせる大河の唇はちょっと秘密を含んでいるようで、
「竜児も返事を書いてよね」
懸念はずばり的中。大河の言葉も竜児の心臓に命中。口を三角にし、頬をぷくぷくとふくらませて幸せそうに目を線のように細め、ラブレターの返事をあらかじめ約束させようとする大河。一方、
「ちょ、ちょっと待てよ。お前返事って何だよ」
竜児のほうは思わず挙動不審。前髪のあたりをいじくりながら、目を伏せてもごもごと口ごもる。顔は既に真っ赤だ。
「あら、書いてくれないの?それってとっても酷いわよ」
と、大河も顔を赤らめながら、しかし楽しそうな表情で竜児にじりじりとにじり寄る。 別段グーをちらつかせているわけではない。むしろ腕を後ろで絡めて、もじっと体をくねらせているだけだ。なのに、たじたじと後退する竜児はあっさり部屋の隅に追い込まれて逃げ場を失う。
「別に書かねぇなんて言ってないだろう」
「じゃぁ、書いてくれるのかしら」
「馬鹿野郎、男が軽々しくそんなこと口に出来るか」
と、顔を背ける竜児に大河は、
「あれ?竜児『ラブレターが恥だなんて思わねぇ』って言ってくれなかったかしら。箱を開けて山のようなみのりんへのラブレター見せてくれたわよね」
と、細めた目で竜児をコーナーに縫い付けたまま、顎をしゃくって押し入れのあたりを示す。
万事休す。ぐうの音も出ない竜児に大河はにっこり破顔してとどめを刺す。
「ね、だから今度は書いたらため込まないでちゃんと渡して」




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