季節は次第に秋の様相を深め、黒板の日付が近づく受験本番を意識させ始める、そんなある日の昼休み。
 ようやく秋雨前線は抜けたものの、窓ガラスの外、天を覆うのはどんよりと灰色の曇り空。
「アメリカ留学って……北村、本気か?」
「ああ、去年からずっと考えててな。やっぱり俺は狩野先輩の後を追いかけたい。
 追いかけて追いかけて……追いついたらもう一度、きちんと想いを伝えたいんだ」
「そうか……だけど、あの兄貴に追いつこうってのはかなり大変じゃねえか?」
「覚悟の上さ」
「しかし、お前がそこまで考えてたとは……俺なんてようやく志望校を絞った所だぞ。なんかものすごく取り残された気分だ……」
「何を言う、高須はある意味俺達よりずっと先を行ってるじゃないか。なんせ婚約まで済ませているんだからな」
「確かにそうだけど、実際に結婚するためにはやっぱりきちんと大河を養っていけるようにならねえと」
「だが、高須も『覚悟の上』なんだろう?」
「俺のはそんな大仰なもんじゃねえよ。ただ、『みんな幸せ』を目指したいだけさ」
「いや、端から見てると十分に大仰で大変そうだと思うぞ、それは」
「そうか?まあ、どっちもまだまだ先は長いってことか」
「ああ、だからこそやり甲斐があるってものだけどな」
「それもそうか。頑張ろうぜ、お互いに」

 帰り道、隣を歩く大河がふと顔を上げる。
「あ……竜児、あれ見て」
 指差したのは彼方の空、雲間から差す日差しが輝くヴェールのようで。
「あれって『天使の梯子』っていうんだって」
「おう、綺麗だな」
 言いながら竜児は大河の肩を抱き寄せる。
「竜児?」
「いや、なんとなく……」
「ふうん」
 呟いて大河は竜児に体を預けて。
 そのまま二人は、同じ光を見続ける。 



作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system