夕暮れの迫る喫茶店。
 高須竜児は世界を滅ぼさんとする決意の顕れとして、その拳を突き上げる……わけではなく、
「おう北村、こっちだ」
 高校以来の親友を呼ぶために片手を挙げただけで。
「おお高須、遅くなってすまない」
「いや、元々無理言ったのはこっちだし」
「しかし高須、ずいぶんと疲れているというかやつれているというか……結婚準備というやつはそんなに大変なのか?」
「……そんなにひでえか?」
「うむ、あまり言いたくないが、この席の周りだけ妙にガランとしてるのは間違い無く高須の顔のせいだな」
「なんか、やるべき事が後から後からポコポコポコ湧いて出てきてな……仕事の方もあるし。
 北村も覚悟しとけよ。狩野の兄貴とそろそろじゃねえのか?」
「ああ、その前に入念に下調べと準備をしておくことにしよう」
「まあ忙しいのは確かだけど、これはこれで楽しいんだけどな」
「そんなものか?」
「大河なんて毎日テンションが高くて、別の意味で大変だぞ。なんか『正式に夫婦になる瞬間が日々近づいてくるのが嬉しい』とか言って」
「なるほど、それならマリッジブルーってやつとは縁が無いようで安心だな。
 それじゃ、これが元2−Cメンバーの今の連絡先のリストだ」
「おう、ありがとう。本当にお前が帰国しててくれて助かったぜ」
「しかし、今時高校二年生の時のクラスメイトを全員招待というのは珍しいんじゃないか?」
「そうかもしれねえけど、あの一年があってこその俺と大河だからな。色々迷惑もかけたし、きちんと報告してえんだよ」
「今でも迷惑だったと思ってる奴はそう居ないと思うけどな。まあ、その真面目さが高須らしいが」
「おう、そうか?」
「ところでだな高須。次に会う時は何と呼べばいい?」
「は?」
「いや、お前達二人とも『高須』になるわけじゃないか。どう呼び分けたものかと思ってな」
「……そのへんはまあ、好きに呼んでくれ」


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