「おはよう大河」
「おはよう竜児。今日はちゃんと私が見えてるわね」
「当たり前じゃねえか」
「あら、昨日思いっきりぶち当たってくれたのは何処の何方だったかしら?」
「う……それは昨日散々謝ったじゃねえか」
「よかったわね竜児。もしまた気づかないようだったらその目玉を抉り出して水洗いしてたところよ」

 戻ってきたかつての定位置を歩きながら、大河はちらちらと繰り返し横の竜児を見上げる。
 竜児はといえば、逆に微妙に視線を逸らしつつ、大河の側の掌を握ったり開いたり。
 と、大河がピタリと足を止める。
「おい大河、どうした?」
「……なんか、ずるい」
「はぁ?何がだよ」
「だって、私はずっとドキドキしっぱなしで竜児が気になって仕方ないのに、竜児は平然としてるんだもの」
「俺だって平然となんてしてねえぞ。こうやって大河と一緒に登校できて、幸せなんだけど妙に緊張しちまって……さっきから頭がどうにかなりそうだ」
「嘘。こっち見ようともしないじゃないの」
「それは見ないんじゃなくて、見られねえんだよ。なんか……変に気恥ずかしくてさ。
 正直に言うと、大河と手を繋いでいいものかどうか、ずっと悩んでたんだぞ俺は」
「本当?」
「嘘ついてどうする」
「そうなんだ……そうね……
 ……ねえ竜児、キスして」
「んなっ!?た、大河?」
「ほら、今なら他の人もいないし、そこの物陰なら見られる心配も無いわよ」
「そういう問題じゃねえだろ!何で今、こんな所でキスなんだよ!?」
「あのね、さっきから私と竜児が落ちつかないのって、私達の関係が『恋人』に変化して実質的に間が無いからだと思うの。慣れてないのよね」
「お、おう」
「だったら、それを無理矢理にでも先に進めて、並んで歩くぐらいなんでもないことにしちゃえばいいじゃない」
「……ショック療法みたいなもんか?」
「そう。だからねえ……早く」


「おはよう北村」
「おお、おはよう高須。遅刻寸前とは珍しいな、寝坊でもしたか?」
「いや、そうじゃねえんだけど……途中でちょっと、思ったより時間とられちまって……」



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