「……騙された」
 紙袋やら箱やらを両手一杯に抱えて竜児は呟く。
 それを地獄耳で聞きつけ、竜児の目の前でくるりと振り返るのはよそ行きファッションの逢坂大河。
「人聞きの悪い事言わないでよね。私は一言も嘘吐いてないじゃないの」
「そりゃまあ、言葉ではな……」
 珍しく神妙な表情で『竜児、ちょっとつきあって欲しいの……』などと言われ、何事かと思いつつ電車に揺られ……
 何の事はない、こうやって買い物の荷物持ち要員にさせられているわけで。つまり結局の所は、
「ノコノコとついてきた竜児が間抜けなのよ」
 ふん、と前に向き直ってずんずんと歩く大河の後を、竜児は溜息をつきながらついて行く。
(しかし……やっぱり大河は目立つよな)
 少し後から見ているとわかるのだが、すれ違う男の半分ぐらいは大河に目を留めて、さらにその半分ぐらいはそのまま見蕩れている。
 慣れに加えて日々の言動からつい忘れがちになるが、なにしろ大河は人形かお姫様かという美貌の持ち主なのだ。
 対して竜児はどうかというと、大河を見てぽやんとした顔をしていた男が突然両目を見開き、そそくさと視線を逸らすことから推して知るべし。
(……俺と大河って、他の人にどう見られてるんだろうな?)
 片や美少女、片や凶眼。取り合わせのミスマッチといえばこれほどのものはそう無いだろう。
(兄妹……ってことは無いよな、特徴違いすぎるし。うーん……お嬢様にこき使われるチンピラヤクザ、とか……)
 ふわふわと揺れるフリルと長い髪を眺めながら、竜児はぼんやりと考える。
(それとも……ひょっとして…………恋人同士とか、か?)
 と、再び大河が振り返り、
「ちょっと、なにグズグズしてるのよこの駄犬!いつまでご主人様を待たせるつもり!?」
「……それはねえか」
「はぁ?」
「いや、こっちの話だ」
「何よ、気になるわね」
「何でもねえって」



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